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世界が注目、電通はなぜ良質なマグロの見極めをAIで実現するのか

世界が注目、電通はなぜ良質なマグロの見極めをAIで実現するのか

スマホアプリでマグロの品質を瞬時に判定

良質なマグロを見極めるには、長年の経験と勘に裏打ちされた職人の目利き能力が求められる。この熟練の技を人工知能(AI)で実現するのが電通の「TUNA SCOPE(ツナスコープ)」だ。味や食感、脂のノリなど品質に関する情報が集まる尾の断面をスマートフォンで撮影して判定。職人による品質評価との一致率は約90%を誇る。匠(たくみ)の技術をAIが受け継ぎ、伝統の技をより便利な形にして世界へ、そして未来へと広めていく。

ツナスコープはスマートフォンアプリケーション(応用ソフト)でマグロの品質を瞬時に判定する。まずはマグロの尾の断面を大量に撮影し、ベテランの目利き職人による品質評価の結果とともにデータベース化。ディープラーニング(深層学習)を活用し、経験を重ねて職人が体得した暗黙知のAI化を実現した。

ツナスコープの普及で、日本で育まれた目利きの恩恵を世界中の人が享受でき、世界中の人がおいしいマグロを食べられるようになる。国内に目を向けると、目利き人の数は最盛期の半数以下に減少しており、日本の匠の技を後世につなぐ役割も担う。

尾の断面の判定ポイント

AIによる目利きの利用が各地で広がっている。2019年に、ツナスコープで最高ランクに判定されたマグロを「AIマグロ」として、東京都の回転すし店で実際に販売。国内外から反響を集め、さらに拡大していく。20年1月にはニューヨークとシンガポールでの販売を開始。同年3月にはツナスコープを活用した輸出事業が水産庁の「水産物輸出拡大連携推進事業」に採択された。これにより「AIマグロ」が世界各地で展開されることとなった。

世界中から注目されるツナスコープだが、開発の起点は一人のあるアイデア。「スーパーマーケットで買ったマグロには当たり外れがあった。AIの目が入れば当たり外れを解消できる」。TUNA SCOPEプロジェクトリーダーで電通の志村和広クリエーティブ・ディレクターが抱いた思いだ。電通グループ、マグロビジネスを世界で展開する双日や市場関係者らの協力を得て、事業へと結実していった。

今後は事業エリアを広げるほか、対象魚種の拡大にも挑む構え。志村クリエーティブ・ディレクターは「最終的なゴールは、すべてのマグロにツナスコープ(の品質判定)がかかること」と語る。目利きのAI化を導いたビジネスマンが見据える未来。「AIマグロ」の購入が当たり前になる社会もそう遠くないのかもしれない。(編集委員・大友裕登)

日刊工業新聞 2022年2月25日

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