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世界初、東大と日本電子が「原子磁場」を撮影した意義

世界初、東大と日本電子が「原子磁場」を撮影した意義

左から、撮影した電子顕微鏡、新型検出器、40分割検出面(東大提供)

東京大学の柴田直哉教授と関岳人助教、日本電子の河野祐二スペシャリストらは、原子が作る磁場を電子顕微鏡で直接観察した。1オングストローム(オングストロームは100億分の1メートル)以下の分解能で磁場の向きや並び方を可視化した。原子磁場を撮影したのは世界初。原子の電場や磁場をそれぞれ観察でき磁石や磁性半導体、スピントロニクスなどの開発が加速する。

原子分解能磁場フリー電子顕微鏡に電子線の偏向を測る検出装置を搭載した。電子線が試料を透過すると、原子がもつ電子雲や磁場の影響を受けて曲がる。この曲がり具合を検出器で捉え、電子雲などの影響を差し引くと磁場が浮かび上がる。

検出器は検出面が40分割されている。多数の透過電子を数えて電子線の重心の移動量を割り出す。実際に酸化鉄のヘマタイトの原子磁場を撮影し、温度によって転移して磁気パターンが切り替わる様子を捉えられた。

日本電子が製品化を進める。国内では受注が決まり、欧米では引き合いがある。放射光施設でも微小磁場を測れるが、分解能は10ナノメートル(ナノは10億分の1)程度だった。電子顕微鏡は2―3ケタほど分解能が高く、原子レベルの磁気パターンが測れる。磁石や磁気抵抗メモリー(MRAM)などの原理解明につながる。原子磁場の撮影は電子顕微鏡開発以来の未踏領域。成果は英科学誌「ネイチャー」に掲載された。

日刊工業新聞2022年2月10日

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