DX推進へ、NTT東日本が1000人に増やす「プロデューサー」の育成法
コロナ禍を機に、官公庁や企業でデジタル変革(DX)を推進できる“人財”の育成が重要性を増している。通信会社やシステム構築(SI)事業者では自社で培った育成の知見を社外へ提供し、DXの機運を高めようとする動きが目立つ。情報通信技術(ICT)を本業としない企業や教育機関、自治体も自らDX担当者を確保できれば、業務改革の実効性やスピード向上につながる。DX人財育成事例を追い、成果や課題などを考察する。
「“やりっ放し”ではない形態で実施できている」―。NTT東日本営業戦略推進室の高橋常雄担当部長は、社内の「DXプロデューサー」育成課程の実効性に自信を示す。
NTT東は、人工知能(AI)やクラウドコンピューティングといった技術の概要を理解し、業務上の課題の解決に効果的なツールを選択して使える人をDXプロデューサーと定義。育成課程では座学で基礎知識を習得した後、ハンズオン(体験学習)でツールの設定や操作を学ぶ。ツールの例には、AIの機械学習モデルの開発作業を自動化する「オートML」がある。
ハンズオン実施後は「業務の課題を各自が持ち寄ってワークショップ(グループ学習)で議論をして、現場へ帰ってからDXツールの導入を自ら実行し、最後にその結果の報告をする」(高橋担当部長)。こうした流れを設けることにより、知識の習得だけで終わらせない方針だ。座学開始からDXツール導入結果の報告までの期間は3カ月ほど。2021年12月時点でDXプロデューサーは約300人おり、22年度には1000人を見込む。
社内で培った人材育成の知見を活用し、社外向けのDX人材育成講座も展開する。21年8月に信州大学などへ提供した際は、座学部分を2日間の「基礎講座」、ハンズオン部分を同じく2日間の「実践講座」として計4日間で設定。社内向けと比べてかなり期間を短縮しているものの、高橋担当部長は「研修終了後はアーカイブ(記録)して、1カ月、学生の皆さんが復習できる環境を作っている」と配慮を忘れない。
NTT東はDX人材育成講座を、高等専門学校や高校といった他の教育機関にも提案する考え。地方自治体や中小企業への提供も狙う。自治体職員が受講する際は「ワークショップで地域の課題を選定してもらい、どういう手段を使えば解決できるかを学んでいくことで、プログラミングはできなくてもツールの選定や効率化の効果の理解はできる人が増えていく」(同)。
日本の官公庁や自治体にはITに明るい職員が少なく、特定事業者の技術や製品へ過度に依存する「ベンダーロックイン」が起きやすいと指摘されてきた。NTT東の高橋担当部長も「ベンダーの持ってくるものが本当に効率化に資するのか、自治体の職員がなかなか見極められないのが現状」とみる。役所とIT企業が健全な距離感を保つ意味でも、DX推進の意義は大きいと言えそうだ。(編集委員・斎藤弘和)