薬物送達に提案、温度で薬剤を放出するスゴい「ゲル」開発
関西大学の豊島有人大学院生と宮田隆志教授らは、分子を型として薬剤分子を捕まえて離す温度応答性ゲルを開発した。環状のオリゴ糖であるシクロデキストリンをゲルのポリマーに固定し薬剤分子を認識させる。ゲルが縮むとシクロデキストリンが薬剤分子を挟み、ゲルが膨らむと薬剤分子を放出する。ゲルの膨縮は温度で調整する。薬物送達システム(DDS)などに提案していく。
まず抗炎症作用などがあるジアフェニルスルホンを二つのシクロデキストリンで挟んだ複合体を作る。これを原料に加えてゲルを重合する。するとゲルの高分子の網目の中にシクロデキストリン複合体が固定されたゲルができる。ゲルが膨らむとシクロデキストリン同士が開いてジアフェニルスルホンが放出される。
この捕捉と放出の原理を温度応答性ゲルに応用した。37度Cを境にゲルの形が変わり、ゲルが膨潤してシクロデキストリン同士の距離が開くゲルを作製した。すると35度Cと40度Cでジアフェニルスルホンの捕捉や放出に関わる活性化エネルギーが30倍ほど変化した。冷やすと薬剤を捕まえ、温めると離すゲルができた。5度Cの温度上昇で切り替えられるため省エネな手法になると期待される。
ゲルの膨縮は温度以外にも水素イオン指数(pH)や塩濃度などでも切り替えることができる。DDS以外にも刺激応答ゲルを有用分子の回収精製に使うなど応用を広げる。高分子学会の高分子ゲル研究討論会で発表した。
日刊工業新聞2022年1月28日