ノーベル賞の有力候補「自己集合」を応用、新材料・新薬開発に貢献する「両親媒性分子」とは?

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ノーベル賞の有力候補と言われる東京大学の藤田誠卓越教授が「自己集合」を発見して約30年がたち、多くの分野で応用されている。東京工業大学では、自己集合を利用し、水と結合しやすい親水性と油と結びつきやすい疎水性を持つ「両親媒性分子」を混ぜるだけで合成する方法を開発した。短時間・安価で作れるだけでなく、新材料や新薬の開発に必要な分子を簡単に選定する手法の確立につながると期待される。(飯田真美子)

自己集合は分子が自発的に構造体を形成する現象。自然界では雪の結晶や生命の設計図となるデオキシリボ核酸(DNA)の二重らせん構造など広く見られる。分子同士が付いたり離れたりを繰り返し、自然と安定な形に落ち着く仕組みだ。東大の藤田卓越教授は、これを化学反応に応用し、原料を混ぜるだけで構造体を無駄なく作る方法を開発した。自己集合で合成した構造体は中が空洞のカプセルのようになっており、有機分子などを取り込める。

藤田卓越教授は、「自己集合を応用した分子構造の解析方法『結晶スポンジ法』を開発し、複雑な分子構造を解析できるようになった。自己集合がさまざまな分野で使われてほしい」と展望する。

自己集合はすでにさまざまな分野や化学合成に応用されている。東工大の豊田真司教授と鈴木颯大学院生、山科雅裕助教は、親水性分子と安価な疎水性分子である「リン化合物」を混ぜるだけで両親媒性分子を合成する方法を開発した。同分子は洗剤などのように水中で疎水性部分が集合した「ミセル」を作る。さまざまな有機分子を取り込むことができ、新材料の開発や創薬分野の薬物送達システム(DDS)の構築などに応用できると期待される。

従来は高価な反応剤を使い段階的に反応させたり、精製作業が必要だったりと、手間のかかる作業が多かった。また反応剤を使わないと水中で不安定になるという課題があった。

研究グループは、たんぱく質の化学修飾などに使われる「シュタウディンガー反応」に注目。窒素原子三つと塩素原子などの「ハロゲン基」を含む親水性の化合物と、疎水性のリン酸化合物を60度Cで3分間混ぜることで、両親媒性分子を合成することに成功した。さらに、合成時に疎水性の色素を両親媒性分子の中に取り込ませることもできた。

高価な反応剤を使わずに、原料を混ぜるだけで両親媒性分子を短時間で低コストで合成できる。山科助教は「原料の分子構造や取り込ませる分子の種類を変えることで汎用性を広げたい」と応用の可能性を見通す。

材料や創薬などの開発では、目的の効果が見込まれる物質を得られるまで何度も化学合成を続け、数年以上かかることも珍しくない。同手法を使えば、一つの反応にわずか3分しかかからない。短時間・低コストで分子を合成できるだけでなく目的分子を迅速に選定する手法としても注目度が高い。将来的に産業界への貢献も大きくなると期待される。

日刊工業新聞2021年11月8日

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