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2代目社長・佐治敬三の奮起で作品ゼロから設立、他とは一線画す「サントリー美術館」の魅力

2代目社長・佐治敬三の奮起で作品ゼロから設立、他とは一線画す「サントリー美術館」の魅力

国宝「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」一合(鎌倉時代 13世紀 サントリー美術館蔵)

サントリーの文化・芸術活動は、2代目社長の佐治敬三が根付かせたことで知られる。企業理念には「利益三分主義」があり、敬三は創業者から続く「やってみなはれ」の精神で、美術館やコンサートホールなど多くの文化施設を手がけた。そこには“お酒とともに文化を楽しんでほしい”との願いもあっただろう。

敬三が美術館を造ろうと志した時、作品はゼロだったという。学芸部長の石田佳也氏は「収蔵品を持たないのに美術館を建てるなんて、と先輩格の館長たちに驚かれたようです」と明かす。これに奮起した敬三は、1961年の社長就任と同時に美術館を設立。初代館長となり、展覧会を催しながらコレクションを増やした。「サントリー美術館」は2021年、開館60周年を迎えた。

当初から先人の暮らしを彩ってきた「生活の中の美」を基本理念に掲げ、他の美術館とは一線を画す。絵画や陶磁など日本の古美術を中心に、その収蔵品は屏風(びょうぶ)などの家具からファッションにまで及ぶ。企業としてウイスキーの文化を育んだ時期でもあり、江戸切子や薩摩切子といったガラス工芸品も早くから集めた。

建築家の隈研吾氏が「都市の居間」をコンセプトに設計。床材にウイスキーの樽材を再利用している

国宝「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」は開館の翌年、敬三が「清水の舞台から飛び降りる」覚悟で購入したそう。その後、これに引き寄せられるようにして名品が集まり、収蔵品は現在、国宝1件、重要文化財15件を含む約3000件を数える。1月26日には「よみがえる正倉院宝物」展が開幕し、最新技術を駆使した職人技の数々が見られる。

丸の内に開館し、赤坂見附、六本木の東京ミッドタウンと場所を変え、現在は近隣の国立新美術館や森美術館とも連携する。09年にはサントリー芸術財団が設立され、美術と音楽の対話が感じられるのも同館の魅力だろう。サントリーは文化をゼロから育んだ。六本木に訪れた際にはぜひ、「立ち寄ってみなはれ」。

【メモ】開館時間=10―18時(金土は20時まで)▽休館日=火曜日、展示替え期間など▽入館料=展覧会により異なる▽最寄り駅=都営地下鉄大江戸線ほか「六本木駅」▽住所=東京都港区赤坂9の7の4▽電話番号=03・3479・8600

日刊工業新聞2022年1月14日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
佐治敬三は美術や音楽だけでなく、学術の振興にも力を注いだ。大阪帝国大学理学部卒で有機化学の権威・小竹無二雄教授に師事。創業者の父の跡を継ぐが化学者の夢も諦めきれなかったようで、食品化学研究所(現・サントリー生命科学財団)を設立し、若手研究者を育てるなど基礎研究を熱心に支援した。サントリーの事業においてもその思いは変わらず、特に04年に開発した「青いバラ」は敬三の悲願のプロジェクトだった。

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