グループ全4万人をデジタル人材に、旭化成が推進するDX戦略のすべて
旭化成はすべての社員がデジタル技術を使い、ビジネスモデルを変えるデジタル変革(DX)を加速する。2023年までにグループの全4万人をデジタル人材に育成し、独自素材とデータ活用の組み合わせなどで新事業を立ち上げていく。デジタル技術が本領を発揮するのは、部署や企業の枠を超えてデータをつなぎ、新たな価値を生み出すことにある。旭化成のDXは新たな段階に入る。(梶原洵子)
「独自の教育コンテンツを作り、本気で4万人のデジタル人材を育成する。他社にはあまりない取り組みだ」と久世和資常務執行役員は目を細める。教育コンテンツは旭化成のDXに必要な情報を詰め込みつつ、最初は1コース15分程度で初心者も始めやすくした。
教育はレベル1―5の5段階で、レベル5の合格者は高度専門職に認定する。全員が目指すのはレベル3。6月の開始から国内対象者の50%以上がレベル1を獲得した。受講を強制しないのもこだわりで、デジタル習熟度を示せるオープンバッジ制度などで意欲を刺激する。
全社員でのDXの狙いは、同社の特徴である多様性を生かすため。旭化成は製品もビジネスモデルも違う「マテリアル」と「住宅」「ヘルスケア」の3領域で事業を展開している。「多様な視点は力になる」(久世常務執行役員)といい、「共創」をキーワードに今後のDXを推進する。
独自素材とデータを使った新ビジネスは徐々に始まっている。22年夏には、化粧品など向けに、超微細印刷技術で作製した偽造不可能な透明ラベルを用いた偽造防止支援サービスを始める。物流網の各ポイントで商品に貼られた透明ラベルの真贋を判定し、偽ラベルを貼った偽物を取り除く。判定情報はブロックチェーン(分散型台帳)で共有する。
同社は新事業創出にも共創が重要とみて、これを促す。社内外の多様な人材が意見交換し、共創するためのファシリテーション基盤「旭化成ガレージ」を新たに導入する。同基盤は各種データを多くの人で共有できるようにするほか、発想の転換に必要なデザイン思考やアジャイル開発の考えを組み込んだ。
DXへの注力の裏には危機感がある。「日本の素材産業は世界をリードしているが、デジタル化が遅れている。このままでは海外勢に追いつかれる」と久世常務執行役員は警鐘を鳴らす。
特に気になるのはデータ連携への姿勢だ。海外企業は外部とデータを共有して開発などで高い成果を上げ、より多くのデータを集める循環を作りつつある。「数段飛ばしで日本に追いつこう
としている」(久世常務執行役員)。これに対し、日本では長らくデータは守るものだった。旭化成はこれまで6年間のDX活動で400超の現場の実課題の解決に取り組み、現場からの信頼を得てきた。データ共有・連携を加速するために欠かせないステップだった。今後、社外ともDX思想の共有やデータ連携を推し進め、新たな価値の創出につなげる。