コンビニATMを柱にした事業モデルを確立、セブン銀行特別顧問の経営哲学
「国民のために頑張ると言ってしまい、お客さまのために頑張ると言い換えた」
セブン銀行の安斎隆特別顧問は、アイワイバンク銀行(現セブン銀)の2001年の営業開始会見での発言をよく覚えている。日銀に35年半務め、国民のために働く姿勢を先輩から学んだ。経営破綻した日本長期信用銀行(現新生銀行)の頭取として事後処理にあたった時も、国民の金融システムへの不安を取り除こうとした。
アイワイバンク銀の誘いが来たとき、周囲はうまくいかないと反対したが、挑戦心旺盛な安斎氏らしく「何かできそうだ」と引き受けた。営業開始の準備中、現金自動預払機(ATM)の前に並ぶ行列が20分後も解消されていない様子を見て顧客の不満を実感。常に顧客目線で経営を行い、当初のATMの操作速度や落雷対策が問題とみてすぐに刷新するなど、利便性を高めてきた。今では設置台数2万台を超え、コンビニのATMは社会に不可欠だが、同銀初代社長として、コンビニATMの手数料を収益の柱とする新しい銀行の事業モデルを確立させた。
安斎氏は「経」の字から、経営を地球や、縦糸と横糸に例える。
「地球の経線が縦糸で、経営では理念にあたる。緯度が横糸で、経営者と社員だ。理念を実現するために、経営者と社員が取り組み、布地ができる。経線をひたすらたどると北極も南極も超えずっと続くように、経営も永遠に続く」
安斎氏の理念を体現するのが社是だ。顧客、株主、社員らに「信頼される誠実な企業でありたい」とし、そのためにすべきこととして「うそはつかない」など、コンプライアンス(法令順守)10項目をまとめた。
「コンプライアンスは柳のようなもの。台風で川が氾濫しても、柳は根がしっかりしていて、枝は柔軟なので、流されない。順法精神とはがんじがらめにされるものではなく、厳しい環境の中で生きるためのものだ」
社長や会長時代には社員を信頼し、積極的に挑戦させてきた。
「リスクを取り、新しいことをするのが経営。失敗するかもしれないが『いいよ、やれ』と言ってきた」
ある社員が1億円のプロジェクトに取り組みたいと手を挙げ、許可した。3年後に失敗に終わったが、安斎氏は「プロジェクトにかけたのではない。君にかけたんだ」と責めなかった。その社員は今、インドネシアでの事業拡大に活躍している。(戸村智幸)
【略歴】
あんざい・たかし 63年(昭38)東北大法卒、同年日銀入行。94年理事。98年日本長期信用銀行頭取。01年アイワイバンク銀行社長、10年セブン銀行会長、18年特別顧問。東洋大学の理事長も務める。福島県出身、80歳。