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非常時の現金需要を救う「移動するATM」の進化

セブン銀行、緊急時に備え常に訓練
非常時の現金需要を救う「移動するATM」の進化

衣食住を安定させるため非常時こそ現金は必要(移動式ATM車、セブン銀行提供)

 地震や台風といった天災はいつどこで発生するのか、予測が難しい。年中無休、365日24時間営業をサービスの基本とするコンビニエンスストア。そこから誕生したセブン銀行にとっても防災対策は避けられない課題だ。同社のATM業務管理部の大川原武志次長は「停電ではクレジットカード、キャッシュカード、電子マネーが使えない。衣食住を安定させるため、手元に現金は必要となる」と非常時ほど現金需要が高まると語る。

 全国に約2万店舗あるセブン―イレブン。このほぼ全店に同行の現金自動預払機(ATM)を設置している。セブン銀行の提携金融機関は約600社、1日当たり約2300万人が利用し、全国で2万4000台のATMが稼働する。3メガバンクのATM設置台数は、三菱UFJ約8300台、三井住友約5800台、みずほ約5700台の計2万台。セブン銀行は1行でメガバンクを上回る規模を誇る。

 2011年に発生した東日本大震災では多くの商業施設が被災・営業中止を余儀なくされた。セブン銀行のATMも被害を受け、2100台が休止。同行は事業継続計画(BCP)に基づき、「緊急災害対策本部」を設置。ATMの早期復旧、安全稼働を目指した。

 セブン―イレブンは震災から1カ月後には宮城県内で移動販売を開始。同社専用の冷蔵配送車両の内部を改造し、おにぎりやお弁当、パン、飲料など生活必需品約100種類を搭載。店舗の駐車場を販売拠点とし、周囲の事業所や復旧現場などで移動販売を行った。さらにセブン銀行は移動式ATMを避難所などで運行し、現金の入出金を支援した。

 震災からまもなく8年が過ぎるが、ATM号は今も活躍する。大川原次長は「急に必要となっても、動かないと意味がない。いつでも使えるように訓練を行っている。地方のイベントの際に派遣することもある」と話す。

 鈴鹿サーキットや音楽フェスティバルなどにも移動車を派遣し、スタッフの実地訓練も合わせて行う。イベント会場にはATMがないことが多い。グッズを買い求めるため現金が必要なこともあり、ATMには長蛇の列ができる。物販店や屋台の運営会社が入金しやすくなる意外なニーズも出てきた。

 勘定系システムのBCPも強化している。セブン銀行は日本ユニシス、野村総合研究所と共同で勘定系システムを東京・大阪の2拠点で運用。本番機とバックアップ機を東阪両センターに分けていたが、東阪両センターで交互に本番機として運用する方式に改めた。定期的に本番機を入れ替えて、BCPの高度化と24時間365日無停止連続運転が可能となり、セブン銀行の利用者の安全性がさらに確保されるという。

 18年12月からは、AIG損害保険がセブン銀行のATMで個人火災保険の一部保険金を受け取るサービスを始めた。大川氏は「セブン銀行はセブン―イレブンから誕生しただけに、コンビニエンスストアと共に成長を続けたい」と語り、次の新たなビジネスチャンスを模索する。

訓練をかねて地方のイベントに派遣(セブン銀行提供)

(文=浅野文重)
日刊工業新聞2018年1月28日

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