AIロボットが問診、外来がん薬物療法の課題解決なるか
がん研究会有明病院(東京都江東区)は、通院でがん薬物療法を受ける患者に対し、タブレット端末を使う人工知能(AI)ロボット問診の導入に向けた取り組みを始めた。医師の診察前に行う薬剤師による副作用問診をAIロボ問診に段階的に置き換え、薬剤師不足や副作用の見落とし防止など、外来がん薬物療法が抱える課題解決を目指す。詳細確認が必要な患者には薬剤師が重点的に問診し、最適な処方提案につなげる。(山谷逸平)
がん研有明病院には毎日150人以上の患者ががん薬物療法を受けに通院している。医師は診察後、当日治療するかどうかを決める。ただ、薬物療法剤の種類増や抗がん剤による副作用の多様化などを背景に、医師の診察前に薬剤師が極力、患者へ問診するようにしている。
だが、小口正彦副院長兼AI医療センター長は、「人的資源の関係で薬剤師による問診に限界がある」と指摘する。そこで2020年から試験的に始めたのがAIロボによる問診だ。内閣府の大型支援事業「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」第2期のテーマの一つ、「AIホスピタルによる高度診断・治療システム」の一環として、日立製作所とシステムを共同開発中だ。
同社開発の音声対話ができるコミュニケーションロボ「EMIEW(エミュー)」の機能を搭載したタブレット端末を薬剤師の問診前に患者が利用することで、詳細確認が必要な患者が事前に薬剤師や医師に通知され、主要な副作用をもれなく確認できる。
AIロボ問診の導入で薬剤師の担当業務を一定程度減らすことができ、薬剤師の不足解消につなげる狙いだ。加えて多忙な医師や薬剤師、看護師による聞き漏れを抑制できるほか、体調の良い患者を長時間、院内で待たせないなどの利点もある。
コロナ禍で十分な実証はできていないものの、小口副院長は「薬剤師による副作用の問診業務が効率化され、大幅に時間短縮できる可能性がある」と期待する。現在、がん薬物療法のレジュメごとにAI問診コンテンツを作成中だ。レジュメごとに試験運用で問題がなければ、完成したレジュメ順に段階的に実臨床に用いていく。小口副院長は「2年以内に全がん薬物療法患者に対して使いたい」と意気込む。
がん薬物療法のAIロボ問診の社会実装に向けて、進めているのが腫瘍内科医が不足している地域医療機関との連携だ。
まずは板橋中央総合病院(東京都板橋区)と連携し、がん研有明病院が蓄積したノウハウや知見を地域医療に還元する。首都圏以外の地域医療機関とも連携に向けて準備中だ。
小口副院長は「働き改革は医者や薬剤師のためでもあるが、患者に良い診療を提供する重要な要素」とした上で、「医療従事者が心にゆとりを持てば最善の状態で患者と向き合える」と、がん薬物療法のAIロボ問診を積極的に展開していく方針だ。