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施行迫る。「プラ資源循環促進法」は資源循環に革命起こす

施行迫る。「プラ資源循環促進法」は資源循環に革命起こす

粉砕した廃プラ。熱で溶かして再生ペレットを製造する(いその提供)

「大きな革命が起きようとしている」。プラスチック専門のリサイクル業者、いその(名古屋市東区)の磯野正幸社長は興奮を隠せない。2022年4月施行の「プラスチック資源循環促進法」が革命の震源地だ。再生プラの使用や使い捨てプラの削減を企業に迫り、日本の資源循環を大きく変える可能性がある。

いそのは廃プラ製品を砕いて溶かし、製品の材料となる再生ペレットを生産する。20年10月、当時の菅義偉首相が50年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指すと宣言した直後から問い合わせが急増した。

原油から新品のプラを製造すると二酸化炭素(CO2)が発生するが、再生プラは排出を抑えられる。排出量に応じて課税する炭素税を導入している国では再生プラの利用が節税になることもあり、海外展開する企業が再生プラに関心を寄せている。同社は廃車のプラを再生し、新車のプラとして供給する「カーtoカー」の資源循環も手がける。現状の扱いは少量だが、急速に増える予感がある。

もう一つ「(環境や社会に配慮した)エシカル消費の流れも感じる」(磯野社長)という。環境配慮素材を評価する消費者が増えており、外食事業者が宅配弁当に再生プラの使用を始めた。持続可能な開発目標(SDGs)やESG(環境・社会・企業統治)投融資もあり、リサイクルが企業評価に直結するようになった。

高まりつつある再生プラの需要を決定付けるのが、プラスチック資源循環促進法だ。「私たちには『待っていました』という法律」(同)と手放しで喜ぶ。新法の目玉の一つが、メーカーや販売事業者が使用済み製品を自主回収できる仕組みだ。現状は廃棄物処理法の許可が必要だが、新法は再資源化計画の作成を条件に許可のないメーカーなどにも回収を認める。

自主回収が広がれば廃プラ製品の回収量が増加する。リサイクル業者は再生ペレットを増産でき、再生プラを求めるメーカーの要請に応えられる。「リサイクル業者も動きやすくなり、さらに資源循環に協力できる」(同)と期待する。

再生プラ製品。廃プラから製造した再生ペレットを成形(いその提供)

また新法は、市町村があらゆる廃プラ製品を家庭から回収できるようにする。現状は容器包装リサイクル法で決められたペットボトルや食品トレーなどが対象。新法は歯ブラシやオモチャ、ハンガーなども回収可能となるため、リサイクル業者にとっては廃プラの調達機会が増える。また「廃プラ製品の分別に協力してきた住民や自治体も報われる」(同)と話す。

磯野社長によると同業者にも新法を契機とした引き合いが増えているという。「再生プラは新材よりも安価だから選ばれてきた。いま、コスト優先の意識も変わろうとしている。大きな革命が起きようとしている」と確かな手応えを語る。

新法は他にもポイントがある。政府は一度の使用で廃棄する使い捨てプラを年5トン以上配る事業者に削減を義務付ける方向だ。取り組みが不十分だと国が勧告や命令を出し、従わないと50万円以下の罰金を科す。対象となる使い捨てプラは店頭で配るスプーンやストロー、ホテルが宿泊客に提供するヘアブラシ、クリーニング店のハンガーなど12品目を計画。事業者には有料化や受け取りを断った人へのポイント還元、回収後の再使用などの対策を求める。

またプラの使用を減らす設計指針を国が定め、メーカーが認定を受けられる制度も創設する。再生プラの採用も指針に入るため、廃プラの争奪戦が予想される。

日本の19年の廃プラ発生量は年850万トン。再利用は22%にとどまる。新法をきっかけに“真の循環社会”への変化が始まる。

インタビュー/テラサイクルジャパン代表 エリック・カワバタ氏 容器リユース、日本で拡大

米企業のテラサイクルは日本において海岸漂着ゴミや歯ブラシなど、再生困難と思われてきた製品をリサイクルしてきた。化粧品や調味料の容器を繰り返し使うリユースの仕組みをメーカーや小売店に提供する「Loop」も21年に開始し、日本の資源循環を先導してきた。テラサイクルジャパン(横浜市中区)のエリック・カワバタ代表に新法への期待などを聞いた。(編集委員・松木喬)

テラサイクルジャパン代表 エリック・カワバタ氏

―日本市場の変化を感じていますか。

「17年末に中国が廃プラの輸入を制限すると、日本は輸出していた廃プラの国内処理を迫られた。この騒動をきっかけに廃プラを燃料として燃やす熱回収が廃プラ処理の6割を占めている事実も関心を集め、プラ資源問題への意識が高まった」

「ESG金融が浸透し、エコが投資判断になるようになった。企業はESGの改善が必要となり、テラサイクルのビジネスが増えた。日本でリサイクル事業に協賛する企業は17年11月の6社から今は26社に増えた」

―容器をリユースするLoopも日本で始めました。

「リユース容器は長く使うことに経済合理性があれば、使い捨てプラと競争できる。ビール瓶などで日本に再利用の文化は生き残っており、リユースが増える素地がある」

―新法の影響は。

「使い捨てプラを扱うホテルやレストラン、カフェなどがLoopに興味を持っている。オフィスからも業務用洗剤の容器などを再利用したいという声が届いている」

―新法への期待は。

「使い捨てプラを減らそうという大きなメッセージと受け止めている。消費者が商品を長く使う発想になれば、メーカーもリユースを前提としたデザインに取り組める」

―資源循環で欧州が先行してきました。

「日本が遅れているとは思っていない。日本は廃棄物処理のインフラが整備されており、消費者がゴミ問題に気づきにくい。重要な問題と理解すると消費者の動きは速いと思う」

日刊工業新聞2021年12月20日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
廃プラの焼却をリサイクルと言わなくなりました。この数年の大きな変化ではないでしょうか。私の感覚ですが、もっとリユースやリペアを増やせると思っています。壊れたら修理費が高いから買い替えることあると思います。使い続けたいと潜在的に意識している人が多いと思うので、リペアにもビジネスチャンスありそうです。あと、クリアファイルやボールペンなど、使わずにデスクで放置されているノベリティはどうしたら良いでしょうか?

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