ニュースイッチ

大企業製造業の景況感、コロナ緩和も上昇阻む下押し要因

日銀が発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)がプラス18となり、9月調査から横ばいだった。新型コロナウイルス感染症の緩和による押し上げがあったが、エネルギー価格の高騰や自動車の供給制約による下押しで相殺された。大企業非製造業は9月比7ポイント改善のプラス9となり、コロナ禍前の2019年12月以来の水準を回復した。

全規模(大/中堅/中小企業)・全産業(製造/非製造業)の合計は非製造業の持ち直しもあり、同4ポイント改善のプラス2。19年12月以来、2年ぶりのプラス値だった。今回の調査は新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の拡大前に約8割の回答があり、変異株の影響は一部にとどまる。

全規模・全産業が2年ぶりにプラス値になったのはコロナ禍の緩和が一因のため、エネルギー高や原材料高に加えた変異株出現で、今後の業況が下ぶれる可能性がある。中小企業製造業は同2ポイント改善のマイナス1で19年6月以来の水準だが、コロナ禍の緩和効果をエネルギー高などの影響が上回った。

大企業製造業はコロナ禍の緩和が窯業・土石、石油・石炭製品などの改善に寄与した。一方、エネルギー高や原材料高は、木材・木製品、紙パルプ、食料品の悪化要因となり、化学、鉄鋼、非鉄金属、汎用機械は原材料高のほか、自動車の減産影響もあった。

材料高を販売価格に一定程度転嫁している様子がうかがえる。「上昇」から「下落」を引いた仕入れ価格判断は、大企業製造業が同12ポイント上昇のプラス49、中小企業製造業が同10ポイント上昇のプラス60となった。販売価格判断はそれぞれ同6ポイント上昇のプラス16、7ポイント上昇のプラス16だった。

先行きは主に原材料高などへの警戒感から、大企業製造業が同5ポイント悪化のプラス13だった。

インベスコ・アセット・マネジメント グローバル・マーケット・ストラテジスト 木下智夫氏「先行き『弱気』な姿勢目立つ」

非製造業で対個人サービスや宿泊・飲食サービスが改善し、緊急事態宣言解除など経済再開の効果が出た。

資源価格上昇で製造業の石油・石炭製品は改善したが、全体的には、仕入れ価格判断の上昇を招いた。だが、販売価格判断も上昇した。企業が仕入れ価格上昇を販売価格に転嫁できていないと言われるが、しっかり価格を上げられた企業がある。業況判断全体に寄与したとみられる。

先行きは弱気な姿勢が目立つ。製造業は中国や欧州経済の今後に慎重なのだろう。非製造業は経済再開の効果が出尽くした感がある。2021年度の設備投資計画が弱いことも同じ問題だ。もっと前向きであるべきだが、不透明感があるためだろう。(談)

大和総研エコノミスト 久後翔太郎氏「仕入れ価格の上昇懸念」

大企業・非製造業がプラス9となるなど足元の数値が強く出た。先行きの数値の方が強く出ると思っていたが、幅広い業種が悪化を見通しており、予想よりも弱い。

原因はコスト増加による収益押し下げへの懸念だろう。仕入れ価格判断の上昇幅に対し、販売価格判断の上昇幅が小さい。販売価格に転嫁できない問題は、差分を見ると悪化している。

驚きは2021年度の設備投資計画で、中小企業・非製造業が下方修正したこと。中小・非製造業は上方修正が多い印象だが、コロナ禍の影響が強く、投資マインドが弱い。非製造業全体を需給判断でみると、製造業よりも需要回復が遅れている。K字回復が続いていると言える。(談)

日刊工業新聞2021年12月14日

編集部のおすすめ