もっと稼げたのに…部材足りぬ半導体装置、調達先との連携で明暗
好機“見逃し”最小限に抑える
半導体製造装置に使う半導体がない―。活況が続く半導体製造装置業界に、部材不足の波が押し寄せている。一部では、部材の調達難が原因で、装置の納期遅れが発生。装置メーカー各社は急ピッチで対応を進めている。機会損失を最小限に抑え、好業績を維持できるか。調達の巧拙が各社の業績を左右しそうだ。(張谷京子、編集委員・鈴木岳志)
「部材不足がなければ、8―10月期の売上高を少なくとも3億ドル(約340億円)押し上げられた」。半導体製造装置最大手である米アプライド・マテリアルズのゲイリー・ディッカーソン最高経営責任者(CEO)は、2021年10月期本決算の場でくやしさをにじませた。22年10月期もサプライチェーン(供給網)の混乱は継続するとみており、「その混乱を軽減することが我々の最大の優先事項だ」と続けた。
第5世代通信(5G)の普及やコロナ禍による巣ごもり消費の拡大、自動車の生産回復などで、半導体需要は21年に入り急拡大した。数年前にも、半導体需要の急増で部材が逼迫(ひっぱく)したが、現在は「その時と比べて、もっとひどい状況」(アドバンテストの吉田芳明社長)だ。
吉田社長は「部品単体が足りないというのが18年当時だったとすれば、今はサプライヤー自体があらゆる部材を集めるのに苦労している。自転車操業をしながら支え合っているイメージだ」と分析する。同社が手がける半導体試験装置(テスター)は、部材不足が一因で納期が通常3―4カ月のところ約6カ月に長期化。半導体メーカーに、役員総出で優先供給を打診しているという。
露光装置最大手の蘭ASMLは、部材の逼迫に加え、物流管理センターの立ち上げに問題が生じたことで、一部装置の組み立て開始が数週間遅れた。さらに、顧客が装置の早期出荷を求めるようになったことも影響し「一部の売上高は、10―12月期から22年1―3月期にずれ込む」(ロジャー・ダッセン最高財務責任者〈CFO〉)と予測する。
一方、東京エレクトロンは顧客から早めに受注するなどして製造リードタイムを維持。取引先を対象にした会合を定期的に開催して生産動向を説明するなど、サプライヤーと緊密な関係構築に取り組んできたことが奏功している。河合利樹社長は、日本での調達率が高いこともプラスに働き「海外メーカーと比べると(部材調達難に伴う影響を)軽減できている」と説明する。
ただ「顧客からの追加受注なども含めて懸命に対応している」(河合社長)のは他社と同様。河合社長は、3―5年後の需要拡大を見据え「1兆円を超える調達時代に向けて、サプライチェーンマネージメントを考える必要はある」と認識。9月に新設したコーポレート生産本部において、安全・品質・環境などに加えて、調達の体制強化にも取り組む構えだ。
半導体ウエハー切断・研削・研磨装置で世界首位のディスコ。同社も10月末時点で部材不足による装置の納期遅れは発生していないものの「ギリギリつながっている」(関家一馬社長)状況だ。関家社長は「短期的対策は“モグラたたき”をするしかない」と嘆く。一方長期では、使用する部材の品種を減らして在庫を持つことで対応。現状50種類のマイコンを5種類に絞る。
事業継続計画(BCP)対策として、在庫量の拡大は重要だ。しかし、特定の装置にしか使えない部品を多く抱えていれば、装置の技術進化などで設計を変更した場合、その部品の在庫はムダになる。このため同社は「(なるべく材料に近い状態での)『万能在庫化』を進めて、在庫のムダがないようにする」(関家社長)考え。
部材の逼迫が影を落とす半導体製造装置業界だが、業績はかつてない好調が続く。東京エレクトロン、SCREENホールディングス(HD)、アドバンテスト、ディスコの10―12月期の営業利益合計は前年同期比77・2%増の1940億円だった。22年3月期の業績についても、通期予想を開示していないディスコを除いた3社は売上高、営業利益などを上方修正。東京エレクトロンの河合社長は21年の半導体前工程製造装置(WFE)市場の景況感について「社会のデジタルシフトの進展による半導体需要にけん引され、最先端のみならず成熟世代向けの投資も一段と高まっている」と強調する。
22年以降も成長は続く。米SEMIが7月に公表した統計によると、半導体製造装置の22年の世界販売額予想は20年比約43%増の1013億ドル(約11兆5000億円)で過去最高を更新する見通し。
世界的な半導体不足解消のめどは立っておらず、半導体メーカーの設備投資意欲は引き続き旺盛だ。また今後は経済安全保障強化の流れもプラスに働きそう。和田木哲哉野村証券リサーチアナリストはリポートで「中国や欧米でも自国の半導体製造能力を強化しようという動きが強まっている」と指摘。欧米はこれまで後工程を台湾や東南アジアの半導体後工程請負業(OSAT)に依存していたが、国内に組み立て用工場を建設する方向にあり「各社の装置に対する需要の追い風となっている」という。
需要が長期に継続する「スーパーサイクル」のその先へ。各社は走り続ける。
“大増産時代”突入 半導体確保、国を左右
今は半導体メーカーの大増産時代だ。そして、従来と異なるのは国・地域的な広がりを見せている点だ。
半導体受託製造(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は米国と日本に新工場をつくる。TSMCは今後3年間で全世界の増産に1000億ドル(約11兆3600億円)を投じる計画だ。 ドイツやインドもまだTSMCの工場誘致を諦めていない。各国政府にとって、自国の産業だけでなく軍事力すら左右する先端半導体技術と生産能力の確保は、もはや単なる産業政策の域を超えた国家存亡の課題だ。
ファウンドリー事業でTSMCを追う韓国・サムスン電子は米国テキサス州テイラーに170億ドル(約1兆9300億円)かけて半導体工場を建設すると24日発表した。TSMCへの対抗心とともに、米国の半導体製造基盤を強化したいバイデン政権の意向も後押ししたとみられる。
米インテルも200億ドル(約2兆2700億円)を投じて米国内に新工場を建設中だ。インテルは欧州にも半導体工場を2カ所新設する計画で、欧州での投資総額が今後10年で800億ユーロ(約10兆2500億円)になる可能性があるという。
半導体メモリー大手の米マイクロン・テクノロジーは、今後10年間の増産と研究開発に1500億ドル(約17兆500億円)を投資する。各社が長期の投資計画を相次ぎ発表する背景には、納期遅れが深刻化している半導体製造装置とその部品メーカーに対する増産要請のメッセージが隠されている。