航空機開発に欠かせない、JAXAの約60年続く飛行実験
航空技術の研究開発では風洞試験や数値シミュレーションなどの多くの地上試験が行われる。一方、実際の飛行では気圧、気温、風速などの環境が大きく変化し、地上試験での検証には限界がある。飛行で得られたデータでなければ信用されない、とも言われる。
技術実証のための機体を一から作るのが理想だが、そこまでいかなくても、既存の機体を一部改造して要素技術の飛行実証を行うことは、航空機開発の経験が豊富とは言えない日本では、大変重要な活動と言える。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、前身である航空宇宙技術研究所(NAL)の設立後間もない1962年に、最初の実験用航空機としてビーチクラフト65型を導入し、以来60年近くにわたって、実験用航空機による飛行実証を行ってきた。
現在ではプロペラ機、ジェット機とヘリコプターを各1機、計3機を運用している。プロペラ機は88年度に導入したドイツ製のドルニエ228型である。ジェット機は11年度に導入した米国製のセスナ式680型で、「飛翔」という愛称を公募でつけていただいた。ヘリコプターは12年度導入の川崎式BK117 C―2型である。
実験用航空機をフル活用すべく、さまざまな分野の研究者に研究テーマを提案してもらい、多くの飛行実験を行っている。忙しい時期には各機が毎月違う実験を行うような状況になる。
最近の例としては、旅客機の着陸時の騒音を対象とした機体騒音低減技術の飛行実証(FQUROH=フクロウ)プロジェクトがある。「飛翔」の主翼後部のフラップと主脚に、騒音低減のための部品を追加するという比較的大きな改造を行い、17年までの飛行実験で、騒音を下げられることを実証した。
ヘリコプターについては、災害への対応が大きなテーマとなっている。被災地に集中する航空機と地上の間で救援活動に必要な情報を共有する災害対応航空技術(D―NET)の実証や、パイロットの視覚情報を増強する状況認識支援技術(SAVERH)の研究を行っている。
宇宙関係の試験も行っている。JAXAは18年に小型カプセルによる宇宙ステーションからのサンプル回収に成功しているが、開発段階では実験用ヘリコプターBK117からの落下試験を行い、パラシュートによる回収技術の熟成に貢献した。
今後も、実験用航空機や装備する計測機器の更新を進めながら、新しいテーマの飛行実証に挑戦していきたい。
◇航空技術部門 設備技術研究ユニット 飛行試験設備チーム 冨田博史 電機メーカーを経て01年に旧航空宇宙技術研究所入所。全地球測位システム(GPS)と慣性センサーの複合航法システムの研究や海外での無人航空機実験などに従事。実験用航空機としては「飛翔」を主に担当。