磁石の弱点を“見える化”する産学官連携プロジェクトが獲得した効果

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磁石の弱点“見える化”

磁石の中の磁石を見る―。文部科学省が主導する産学官連携の「元素戦略プロジェクト」の磁性材料研究拠点「ESICMM」(設置機関=物質・材料研究機構)では、磁石の最小単位である「磁区」の観察技術を開発した。顕微鏡を覗くように磁石の弱点が“見える化”され、対策できるようになった。「1―12系」と呼ばれる新磁石材料も開発した。ネオジム磁石と双璧をなす強力磁石になる可能性を秘める。(小寺貴之)

「磁石研究者は暗中模索、手探りで研究を進めてきた。磁区が見えるようになったことで視界が開けた」と物材機構の広沢哲ESICMM代表研究者は説明する。磁石の中には小さな磁石が無数に存在する。結晶粒の一つひとつが小さな磁石として振る舞い、全体で一つの磁石になる。ESICMMでは結晶粒一粒ずつの磁化の方向を観察することに成功した。真空中で磁石を破断し、軟X線ビームを当てて計測する。

見えてきたのは結晶粒の外側からにじむようにじわじわと磁化方向が反転する様子だ。そして一つの結晶粒が反転すると、連鎖するように周囲に反転が広がっていく。磁石が磁力を失う過程を捉えた瞬間だった。広沢代表は「直接観察は磁石研究者の長年の夢だった。これで対策がいくつも浮かんできた」と振り返る。

破断面観察の次は3次元(3D)観察だ。磁石内部の立体的な磁区分布と変化を捉える技術ができつつある。大久保忠勝磁性材料解析グループリーダーは、「3Dの動画が見えたことが大きい。希土類元素や対策の効果がつぶさに分かってきた」と目を細める。

ネオジム磁石の磁化反転現象。外部磁場を大きくすると反転領域が拡大する(物材機構提供)

対策の一つが粒界へのネオジムの浸透だ。融点の低い銅を使ってネオジムをネオジム磁石の中に浸透させる。粒界と結晶粒の外側のネオジム濃度が高まり、保磁力が向上した。高価なジスプロシウムを使わなくても耐熱性を向上できる。

「1―12系」と呼ばれるサマリウム鉄コバルト化合物は耐熱磁石の新材料として浮上した。広沢代表は「希土類のサマリウムは供給過多で安価。希土類の資源リスクを分散できる」と説明する。200度Cではネオジム磁石を超える性能を確認した。

ただ、このサマリウム鉄コバルト化合物は不安定な準安定相だった。そのため薄膜でしか合成できていない。だが粉末製造のめどが付いた。粉末を固めて作るボンド磁石などへの応用が見込める。

こうした知見は産学連携に生かされている。元素戦略は2021年度で終了するが、磁石開発コミュニティーを産学連携プラットフォーム「磁石MOP」として次のステップに進める計画だ。

世界的な脱炭素の流れで磁石の重要性が増している。電気自動車などのモーターの性能や、風力発電の発電効率は磁石に左右される。そして耐熱性や耐食性、成形性など磁石に求められる性能は多岐にわたる。これらの性能を突き詰めると磁区観察など、磁石の学理まで立ち返る必要がある。これが材料研究の面白さであり、産業競争力になっている。産学連携で日本の脱炭素を支える。

日刊工業新聞2021年11月8日

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