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コロナ禍で足りなかった「マスク」「消毒液」が滞留在庫になっていた理由

「1.5次流通」のオークファンに聞きました

コロナ禍で伸長したEC。経済産業省の調査では2020年のBtoCの物販系EC市場規模は12兆円と前年比21%の伸びとなった。一方で、流通量の増加に比例して増えるのが余剰在庫や滞留在庫。中でも、マスクや消毒液など、コロナ禍では生活必需品であるはずの商品が在庫となって滞留している現状が見えてきた。(取材・昆梓紗)

マスク、2021年の3月には余剰在庫に

在庫を買い取ってECやリサイクル事業者向けに販売する「NETSEAオークション」では、コロナ禍で取扱い商品量が急増。コロナ前の2019年には流通額が約1億4100万円だったのに対し、2020年には201%、また2021年はそこから185%の成長となっている。また問い合わせ件数も1.5倍に増加した。

 同サービスを運営するオークファン(東京都品川区)のリバースロジ事業部杉本聡部長は 「企業によって異なるが、滞留在庫は売れなくなって半年~1年経過したものが多い」と話す。
 特に目立っていたのが、マスク、消毒液、オーラルケア用品など、まさに「コロナ禍」を象徴するような商品だ。一時期マスク不足が社会問題となり、その後も高い需要が続いていることから、「余剰、滞留」といった状況になっていることが不思議に思えるが、「2021年の3月にはすでに余剰在庫として取り扱いが増えていた」と杉本氏は振り返る。「感染者数が急増し『第〇波』と言われるようになると余剰在庫が減り、落ち着くと増える、という状況を繰り返していた」(杉本氏)。そのほか、最近では「巣ごもり需要」を反映したキッチン家電、ゲーム関連、食料品なども取り扱いが増加しているという。
 一方でコロナ禍によって需要が減少したスーツケースなども滞留在庫は発生しているものの、「もともとの生産量自体が多くないため量自体もさほど多くはない」(杉本氏)という。

流行ったものが滞留在庫に

滞留在庫は保管場所の確保や管理などのコストがかかるため、廃棄につながることも多い。メーカーや流通業者は滞留在庫や廃棄を防ぐ取組みを行っているものの、コロナ禍のような予測が立てにくい状況下で需給のバランスが大きく崩れたことにより、「作りすぎ」から滞留在庫になるケースが増加した。
 コロナ禍のように大きな変化でなくとも、流行や社会現象によって滞留在庫は常に発生している。「過去には糖質オフ・ゼロなどの商品や、『自撮り棒』の取り扱いが増えました。流行のものは消費量も多いのですが、思った以上に多くの種類や量が生産されていて、売れなければ一気に滞留が発生しています」(杉本氏)。
 また、コロナ禍ではECの新規参入が多かったことも、滞留在庫の増加の一因になっている。個人が副業として商品を仕入れECで販売する場合や、中小企業の参入も増加。初期投資やコストが抑えられるECツールの増加も拡大を後押しした。しかし、参入したはいいものの販売がうまくいかなければ滞留在庫が発生する。NETSEAオークションでは中小規模の事業者からの問い合わせが長期スパンで増加しているという。

EC返品はどこへ行く?

コロナ禍のEC利用で増えたものは余剰在庫だけではない。返品も比例して増加している。NETSEAオークションでは返品された商品の買取量がコロナ禍以前の19年比で2.5倍に増加した。しかし、「返品商品の再販売の仕組みが確立していない状況」(杉本氏)だという。
 EC返品率が高い欧米では、同様の返品を再流通させるサービスを提供するスタートアップが増え、仕組みが整いつつある。日本では、ヤマト運輸が英Doddle Parcel Servicesとともに、EC事業者向けにEC商品の返品を効率化する「デジタル返品・発送サービス」を21年8月に開始。
 NETSEAオークションでは返品商品を中古品として扱い、主にリサイクル業者に購入されているという。「今後日本でも返品は社会問題になっていく。なるべく廃棄されないソリューションを構築していきたい」と杉本氏は力を込める。

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昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
SDGsの観点や、メルカリなど2次流通サービスが身近になったことも後押しし、リユースやリサイクルの意識が消費者に広がっています。日本でも返品商品の再流通サービスが受け入れられる土壌ができているので、今後の展開が期待されます。

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