みずほFGトップが引責辞任見通し、異例の事態が示す根本的な課題
日本を代表する金融グループで相次いだシステム障害は、持ち株会社と傘下銀行の両トップがそろって引責辞任の見通しとなる異例の事態に発展した。みずほフィナンシャルグループ(FG)の坂井辰史社長とみずほ銀行の藤原弘治頭取の辞任は既定路線とされてきたが、ここにきて障害発生時の外為法違反の可能性まで浮上。経営責任はさらに重い。銀行をはじめ金融業は変革期にあり、かつコロナ禍の企業支援にも力を尽くすべき時だ。直ちに内部のほころびを正さなければ、自社ばかりか顧客の競争力をもそぎかねない。(編集委員・六笠友和)
一連のシステム障害を調査してきた金融庁は、みずほ銀とみずほFGに対して検査結果を通知し、業務改善命令を出す。経営責任の明確化や再発防止策の整備を求めるようだ。
みずほFG、みずほ銀は早い段階から両トップの引責辞任を調整してきたが、形式的にも改善命令を待って公表する。公式には「人事については白紙」「(外為法違反の可能性など)個別のことは公表しない」(みずほFG)などとしている。
みずほ銀は2月以降、システム障害を頻発してきた。6月に再発防止策をまとめたものの、それ以後も障害は止まらず、結果、これまでに8回続けざまに問題が起こり、行内でも自社システムに関し疑心暗鬼の状態だった。
9月30日の障害時には、法令違反の可能性すら出てきた。法人向けの外国為替送金システムが停止する不具合があり、この際に外為法に抵触する海外送金処理をした疑いが持たれている。
このため財務省は外為法に基づく是正措置を検討する。度重なるシステム障害に外為法違反の可能性まで重なり、コーポレートガバナンス(企業統治)の脆弱(ぜいじゃく)さをあらためて露呈した格好だ。
これまでのシステム障害では、人的エラーやシステムを構成する機器の故障をはじめ原因が特定されているものもあるが、なぜ障害が相次ぐのかといった根本原因、障害発生の全容は見えてこない。「足かけ8年、開発規模・参加ITベンダー数ともに過去に類を見ない大プロジェクト」(同社)だった勘定系システム「MINORI」に構造的な欠陥があるとの向きもあった。ただ、金融庁は検査の結果、MINORIに、そのような欠陥は見当たらないとの判断に至ったようだ。
引責辞任となれば、新体制の下で再発防止策を確立し、ガバナンスを強化。第三者委員会で指摘された「物言えぬ企業風土」を改めなければならない。
すでに預金者がみずほ銀を見限る動きがある。坂井社長は15日の決算会見で、個人の口座解約が「著しくはないが多少増加している」と影響の広がりを明かした。障害対応の設備投資に2022年3月までに130億円を充てる方針も示すなど、対策に万全を期す構えをみせていた。
人事をめぐっては、2月に4月1日付で次期頭取に就くことが発表され、システム障害のために就任が見送られている加藤勝彦副頭取の去就が注目される。
加藤副頭取の人事に関し、これまで坂井社長は「白紙撤回する」とも「みずほ銀の頭取になると考えている」とも語っている。いずれにせよ、内定時とは異なる有事の銀行トップとして適切な資質を備えているか、再度議論を要するだろう。
顧客である日本企業は資源高やサプライチェーン(供給網)の混乱など収益の下押し圧力を受けている。コロナ禍で構造改革の必要性も高まっている。みずほは一刻も早く自社を再建し、顧客支援に全力を注ぐことが求められる。