「電子帳簿保存法」改正で企業に迫られる選択とその注意点
2022年1月に施行する、改正・電子帳簿保存法(電帳法)のポイントを解説してきた本連載。最終回は、企業の具体的な対応方法を紹介する。企業規模や既存の業務フローに照らして対応策を練ると、最終的には自社で対応するか、外部システムに委託するかの選択を迫られることになる。それぞれの方法や注意点を解説する。
理解度・対応率は低い
改正・電帳法の施行まで2カ月を切ったが、企業の対応は進んでいると言いがたい。
Sansan株式会社が、請求書関連の業務に携わる1000人のビジネスパーソンを対象として21年8月に実施した「電子帳簿保存法に関する意識調査」では、電帳法の内容まで理解している人はわずか8.8%にとどまった。最多は「知らない」と答えた人で、72.4%だった。
筆者もセミナーの開催などを通して啓蒙してきたが、想定以上に企業の理解が進んでいないことがわかった。しかし、ほとんどの企業は既存の業務フローの見直しを迫られる。多くの企業は受領する請求書に「紙」と「電子」が混在しているからだ。
本連載で繰り返し言及してきた通り、22年1月1日以降に受領するPDFファイルなどの電子請求書は、「電子」で保存しなければならなくなる。これまで容認されてきた「書面に出力しての保存」が廃止され、多くの企業が行ってきた「紙での一元管理」は不可能になる。
紙の請求書は従来通り「紙」での保存が可能なため、二重管理を前提に紙での管理も続けるか、スキャン工程の追加などによって電子での一元管理に切り替えるか、企業は選択を迫られる。その選び方は、既存の業務フローとの親和性や、経理担当者・現場担当者の負担の少なさといった観点で異なるだろう。
ただし、今回の改正により請求書受領の電子化に対する機運は確実に高まっている。ペーパーレス化やDXの潮流も受け、紙の請求書も電子で一元管理する期待は一層大きくなるであろうことは頭に置いておきたい。
自社か、外部システムかの2択
管理方法を決めたところで、具体的な対応は、実質的に「自社で対応するか」「外部システムを導入し、対応をアウトソーシングするか」の2択だ。
どちらも、電帳法における請求書の電子保存要件「真実性の確保」と「可視性の確保」を満たす必要がある。
真実性の確保は、「発行企業側でタイムスタンプを付与してもらう」「受領後にタイムスタンプを付与する」「データの訂正・削除ができない、又は履歴が残せるシステムを利用する」「事務処理規程を作成し備え付ける」の4つのいずれかの実施で担保できる。このうち、自社で対応できるのが、「事務処理規程の備え付け」だ。
事務処理規程は、国税庁がホームページで、ダウンロード可能なサンプルを提供している。「どんな書類を対象にするか」「どのような業務サイクルで行うか」「訂正する場合はどうするか」などの項目について、自社の組織や業務フローに合わせてサンプルをベースにカスタマイズしていけばよい。
可視性の確保は、「日付」「取引金額」「取引先名称」の3項目ですぐに検索できる環境整備が必要になる。国税庁が一問一答で示している事例のように「PDFのファイル名に、規則性をもって内容を表示すること」などを行えば、可視性の要件は満たせると言える。
企業の規模や、毎月受領する請求書の枚数にもよるが、新たな業務フロー構築のために一定の工数がかかる。
一方、自社対応に限界があるならば、外部システムの導入を検討することになる。
改正・電帳法の電子保存要件では「データの訂正・削除ができない、又は履歴が残るシステム」を利用すれば、真実性の確保を満たすとされている。また、電子化した請求書データを検索できる機能があるシステムなら、可視性も確保できる。
システムを利用することで、環境整備のための自社の手間が最小限になる。業務全体を効率化できるメリットも大きい。
たとえば、Sansanが提供しているクラウド請求書受領サービス「Bill One」は、「データの訂正・削除ができないシステム」に該当し、クラウド上で請求書の一覧表示や検索が可能であり、電帳法の要件を満たしている。また、あらゆる請求書を一括で受領して「紙」か「電子」かの受領形式も自動で把握でき、データ化した請求書はクラウド上で一元管理も可能だ。
ほかにも、多様な請求書受領・管理サービスが登場しているが、サービスによって、請求書のアップロード方法やOCRによるデータ化の精度などに差異がある。複数のサービスを比較検討する上で、「自社でどこまで手間をかけられるか、どの部分を外部に委託するか」のバランスを見極めることが重要だ。
改正法の施行までの限られた時間で、できる限り負担が少なくスムーズに電帳法対応ができるよう、業務フローを見つめ直し、最善の対策が選択できるように進めてほしい。(おわり)
柴野亮:公認会計士|Sansan株式会社 Bill One Unitプロダクトマーケティングマネジャー。監査法人で勤務後、Sansan株式会社に財務経理として入社。経理実務、資金調達等を担当時、紙の請求書の非効率性に課題をもちBill Oneを起案。現場視点から改正電帳法の啓蒙活動に力を入れている。