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「ミシン」を社名から除外、新生「ジャノメ」が狙うEV市場

「ミシン」を社名から除外、新生「ジャノメ」が狙うEV市場

ネジ締めや塗布など業界を絞らず多くの製造現場で活用できるジャノメの卓上ロボット

蛇の目ミシン工業が1日付で社名を国内外で展開するブランド名「ジャノメ」に変更した。16日に創業100周年を迎えることに加え、産業機器事業を「第二の柱」に育てたい意向がある。同社は1921年に日本初の国産ミシンメーカーとして創業した。100周年の節目に祖業のミシンを社名から外す決断をした。ミシンと産業機器事業の両輪を回すことに全力を注ぐ。新生ジャノメが飛躍の時を迎えている。

ジャノメが成長のエンジンと位置付けるのは卓上ロボットやサーボプレスを主とする産業機器事業。手作業の自動化・省力化が可能なことに加え、データ収集ができるなど製造現場のデジタル変革(DX)に寄与する。

卓上ロボットの用途はネジ締めや塗布、ハンダ付け、基板分割、基板検査など。業界を絞らず多くの製造現場で活用できるのが強みだ。最近では自動車の電動化によって車載電子部品が増えていることに関連し、ロボット需要が増加している。

取締役専務執行役員の高安俊也産業機器営業本部長は「ネジ締めなどの工程はどこでもある。細かい作業のため人手では大変。ロボットは精度が良く、耐久性がある」と自信を持つ。これまではスマートフォンの組み立てに関する設備としての需要もあったが、「電気自動車(EV)向けはさらに伸びていく」(高安本部長)と2分野での展開を期待する。

サーボプレスは油圧プレスと異なり生み出す圧力は小さいが、加圧時間の調整や加圧途中に停止することなどが可能。かしめや圧入が容易になる。サーボプレスも完成車や自動車部品メーカーで導入が進む。「EV向けバッテリーやモーター、インバーター、減速機を合わせた動力源『eアクスル』の製造で使われている」(同)と強調する。電動駆動のためクリーンルームでの使用が可能なことに加え、トレーサビリティー(生産履歴管理)の取得にも役立つ。

2022年度(23年3月期)から新中期経営計画が始動する同社。策定に向けた議論を始めているが、産機への期待は大きい。自動車だけでなく医療や航空分野などにも卓上ロボットやサーボプレスを展開する方針だ。

一方で「30年前から産機を第二の柱にすると掲げていた。ここで確かなものにしなければ将来はない」(同)と危機感も強い。21年3月期は連結売上高に占める産機の割合が10・9%の約48億円。ミシンを含む家庭用機器は約363億円と大きな差があることも確かだ。長期戦略では「100億―200億円にしていく。新しい設備も必要になる」(同)と大型投資も示唆する。

“グリーンミシン”の発想

新型コロナウイルス感染症の影響で生まれた「巣ごもり需要」により、それまでじりじりと売上高が減少していた家庭用ミシンは息を吹き返した。ジャノメの斎藤真社長も「2020年は背中から風を感じる状態だった。21年は日本は前年ほどではないが、海外は需要が増えているところもある」と総評する。

家庭用ミシン事業に求められているのは新たに獲得した顧客をつなぎ留め、さらにファンを増やす取り組みだ。取締役専務執行役員の土井仁家庭用機器営業本部長は「100年続いたブランドをさらに高めていく必要がある」と力を込める。

これまで米国や英国、カナダ、豪州など海外の販売会社などは別々のプロモーション活動を展開していた。土井本部長は「ブランドのベクトルを分散させず集中する。もちろん地域性は考慮するが、全世界で同じ方向性を目指したい」という。マーケティングに関する情報は海外を含めて日本の本社に集約し、戦略を練る構えだ。

家庭用ミシン事業では台数ベースで約85%が、売上高では75%が既に海外に依存する。「グローバル企業との認識をさらに国内外で広める。海外の収益が多いといえども、まだまだ開拓する領域や引き上げる余地はある」と土井本部長は意欲を燃やす。

事業だけでなく、環境対応も活発化する。全産業でカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)への取り組みが加速する中、同社でも「例えば環境に優しい“グリーンミシン”のようなものを作れないか。再利用したプラスチックで製造したミシンなども考えていく」(土井本部長)。

ESG(環境・社会・企業統治)経営も求められている。同社では長年、小学校の教員や小学生にミシンの使い方を指南する「学校支援」を展開するほか、自治体と連携したソーイング教室も企画する。土井本部長は「海外でも同様の事例がある。まずは情報の共有を進めることが、次のイノベーションにつながる。プリンターも2次元から3次元になり飛躍的に市場が広がった。ミシンも歴史にとらわれすぎず発想次第で可能性が広がる」と続ける。

10月には組織を改変し社内に「DX推進グループ」を立ち上げた。営業や事務管理部門、マーケティングなど全方位でデジタル変革(DX)を進める。同社グループ内には社員200人規模のIT会社ジャノメクレディア(東京都中央区)を抱える。「DX人材になり得る人が数多くおり、デジタル活用を内製化できる。コストダウンや生産性向上などにも取り組みたい」(同)と、ミシンのイノベーションに向けた手を打つ。

日刊工業新聞2021年10月4,5日

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