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ロート製薬初の「社外出身」社長、選択と集中にあえて逆行する理由

杉本雅史氏

前職は武田薬品工業の一般用医薬品(OTC)子会社トップだった。ロート製薬120年の歴史の中で、杉本雅史氏は初の社外出身者として社長に就いた。同社は目薬を中心とする一般用(OTC)医薬品と、化粧品などのスキンケア製品を2本の柱とする。「先行き不透明で将来の予測が困難なVUCA(不安定性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代」であり、100年に一度の危機の時代のかじ取りを託された杉本社長には、柱を増やす攻めの経営が期待されている。

「新しい一歩を踏み出さないと企業の長期安定成長は実現できない。一定の利益確保で満足するなら現状維持でもいいが、着実に成長するためには挑戦が必要」

信念は「熟慮断行」。実行前の見極め、熟慮は欠かさず、決断したら果敢に挑戦する。ただ「本当に進んでよいのか石橋を結構たたくタイプ。気付いたらたたきすぎて割れることもある」と笑う。

同社はOTCやスキンケアで得た利益を他の領域に先行投資し、“Well―being(健康と幸福)”に寄与するビジネスを中心に事業の柱を増やす方針だ。製薬会社の最近の傾向である「選択と集中」にはあえて逆行するが、その考えは前職の武田コンシューマーヘルスケア(現アリナミン製薬)社長時代から変わらない。

当時から、人々が自身で健康を管理するセルフメディケーションの必要性を痛感。業界のリーディングカンパニーとなるべくOTCから健康食品へ広げていこうと考えたが、選択と集中を掲げる親会社の方針と食い違っていた。

そのため、新天地を求めロートへ。「創業家が一つの殻に閉じこもるタイプでなく、事業の幅を広げることを志向していた」と、創業家の山田邦夫会長とも意気投合。「自分の価値観とロートの価値観が合ったことに尽きる」と、現在は自分の求める社会実現に向け会社をけん引する。

「人それぞれ長所もあれば、違う角度で見ると駄目な面もあるため、目標とする経営者は特にいない。ただ、経営者には徳が必要だ。高い志があり信念が揺るがず、私心がないことが求められる」

一方で、自身については「仙人ではないので、どうしても私心はある」と、理想像への道のりの険しさを痛感している。それでも「50%以下には抑える」と、自らに言い聞かす。(大阪・安藤光恵)

【略歴】
すぎもと・まさし 84年(昭59)東京薬科大薬卒、同年武田薬品工業入社。17年武田コンシューマーヘルスケア社長、18年退社。19年ロート製薬社長。三重県出身、60歳。
日刊工業新聞2021年9月21日

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