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陸上養殖のコストの5割占める餌やりを自動化するAIシステムの仕組み

陸上養殖のコストの5割占める餌やりを自動化するAIシステムの仕組み

陸上養殖では餌やりが労力やコストの5割を占める。自動餌やりシステムは来年度の実用化を目指す

NECネッツエスアイ(NESIC)は、ウミトロン(東京都江東区)、林養魚場(福島県西郷村)と共同で、人工知能(AI)を活用して陸上養殖における労力やコストの約5割を占める餌やりを自動化するシステムの開発に着手する。林養魚場が長年培ってきた養殖ノウハウと、餌の食べ具合を画像で判断するウミトロンの解析技術、NESICの魚体重自動測定技術を組み合わせる。サーモンの陸上養殖に特化したパッケージ型システムとして、2022年度の実用化を目指す。

3社が取り組むのは地下水を用いた閉循環式の陸上養殖向けシステム。福島県による地域復興関連事業の補助金を受け、20年度に調査研究を始めた。21年度の取り組みとして、システム開発に乗り出す。

林養魚場は養殖プラントの設計開発と育成試験を担う。ウミトロンはAIによる画像解析を用いた摂食状況の判断や生育評価に加え、データを応用した自動給餌機を開発する。海面養殖で実績を持つ独自技術を陸上養殖に応用する。

NESICはカメラで捉えた魚の大きさから重さをAIで自動測定する独自技術を活用。取得したデータを基に魚が無駄なく餌を食べ、効率良く成長する餌やりのタイミングを指標化するとともに可視化ツールも開発する。各モジュールを1パッケージで提供することで、手間と熟練ノウハウが必要な餌やりをAIで効率化し、陸上養殖事業に携わる作業者の負荷軽減と事業運営の合理化を実現する。

開発したシステムは、NESICと林養魚場の共同出資会社であるネッツフォレスト陸上養殖(東京都文京区)がフランチャイズ方式で全国展開する計画。国内では10拠点程度、生産規模は1拠点当たり500トンを想定。NECグループが持つ工場運営のノウハウなども生かし、拠点データを吸い上げて、改善点などを共有する陸上養殖クラウドも整備する。

助成金の採択を受けた福島県では、東部沿岸に陸上養殖プラントを誘致し、雇用創出や地域の活性化につなげる。試算によると、資材調達や建設・施工などを含め40億―60億円の経済波及効果を見込む。地元の漁業組合と協力し、陸上養殖で育てたサーモンを特産品としたり、水産高校の生徒の学びの場としたりすることも検討中。

サーモンは食材として、海外でも広く好まれていることから、台湾やミャンマー、ベトナムなどアジアへのフランチャイズ展開も目指す。国内外のフランチャイズ先の売上高も含め、今後10年間で年間300億円規模の市場を築く考え。

餌の残留化や生態系への影響などが課題となる海面養殖に対して、閉鎖式の陸上養殖は地下水や安心な餌を使う。環境や社会に配慮したエシカル(倫理的)消費や国連の持続可能な開発目標(SDGs)にも合致し、環境に優しいプレミアムな魚としてのブランド化が期待されている。

日刊工業新聞2021年10月1日

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