不動産大手が食・農業で社会課題の解決に相次ぎ挑む事情
不動産大手が食・農業を通じた持続可能な社会の構築に取り組んでいる。一見、不動産と食・農業は遠い存在に映るが、各社が得意とする街づくりとは親和性が高い。人間が生きていく上で欠かせない食に関連したテーマから、社会課題の解決につなげようとしている。(大城麻木乃)
農業をあこがれの職業へ―。三井不動産の社内ベンチャー、グリーンカラー(東京都中央区)は北半球の日本と南半球のニュージーランド(NZ)で、生食用ブドウの通年生産に取り組む。日本が閑散期の冬に、季節が逆転するNZは繁忙期を迎える。従来、農家は閑散期があるために人を雇いづらく、収入も不安定という課題を抱えていた。新たな取り組みで「2拠点居住の楽しさを味わいながら収入も安定させる」(鏑木裕介代表取締役)農業の生活スタイルを確立する狙いだ。
山梨県北杜市に約5万平方メートル、NZ北部に約10万平方メートルの圃場(ほじょう)を確保。日本では生産パートナーの葡萄専心(山梨県笛吹市)で仮植えしたシャインマスカットの苗木約400本を自社の圃場に移植し、2023年8月に初収穫を迎える。NZではバイオレットキングや巨峰などを24年3月に初収穫する予定だ。
収穫までの期間は葡萄専心のブドウを活用し、国内外の飲食店や高級スーパーでPR活動を展開。販路を開拓する。また、このほど品種開発にも参入。種の開発から生産、販売までを一貫して手がけ「良いものをつくり、しっかり稼ぐビジネスモデルを構築する」(鏑木氏)方針だ。
農業は収穫期まで時間がかかる。この点は「ビルが建った後にようやく賃料収入を得る不動産開発と同じ」(同)と捉え、長い目で事業を育てるという。将来的には農業を志す若者を受け入れて稼ぐ仕組みもあわせてノウハウを伝授したり、圃場周辺に宿泊施設を設けてアグリツーリズムを展開したりといった農業を起点にした街おこしに発展する可能性を秘める。
三菱地所は皇居外苑濠の水草「ヒシ(菱)」を堆肥にし、山梨県の農家に提供して野菜栽培に生かす取り組みを推進している。できた野菜は三菱地所が買い取り、このほどロイヤルパークホテルズアンドリゾーツ(東京都千代田区)と連携してオニオンスープを開発した。10月末まで東名阪などのザ・ロイヤルパーク系列のホテルで提供する。都市の資源を地方へ、逆に地方の資源を都市へ循環させ、相乗効果による経済活性化を狙う。
森ビルは六本木ヒルズ(東京都港区)の屋上庭園で「協生農法」の実証実験を推進中。同農法は農地を耕さない「無耕起」、肥料を与えない「無施肥」、農薬を使わない「無農薬」が特徴。農業を通じた新たな試みで、ビルの利用者に環境や食育を考えるきっかけを提供する。
コロナ禍で自炊する人が増え、食・農業への関心は高まったと言われる。不動産大手もこうした流れを受け、一段と自社の取り組みを加速する。