「用地取得競争は過熱しすぎ」の悲鳴も。工業地の地価押し上げる需要の正体
国土交通省は21日、2021年7月1日時点の都道府県地価調査(基準地価)を公表、全国の全用途対前年平均変動率が2年連続の下落となった。ただ下落率は20年度の0・6%減から0・4%減と、わずかながら改善。コロナ禍で打撃を受けた商業地は下落率を広げる一方、住宅地は下落率を縮小、工業地は逆に上昇率を拡大した。コロナ禍でも堅調な住宅や電子商取引(EC)向け物流施設用の工業地は、早くも地価が上向く兆しがみられる。(大城麻木乃)
【商業地】
「ホテルや飲食店が集積する地域では、需要減退から下落が継続している」。国交省の地価調査課は、こう指摘する。
商業地で下落率が全国1位だったのが大阪市道頓堀地区。下落率は20年の4・5%減から21年は18・5%減に拡大。同2位の大阪市なんば地区も3・6%減から16・6%減となり「観光客が激減し、物販・飲食店の収益性が大きく低下したことが地価に響いた」(国交省地価調査課)。
16年連続で最高価格地だった明治屋銀座ビルは1平方メートル当たりの基準地価が3950万円と、節目の4000万円を割り込み、3・7%減だった。
下落が目立つ中、「天神ビッグバン」に代表される再開発が活発な福岡県については地価の上昇が際立った。全国商業地の上昇率1位は福岡市博多区の15・8%で、上昇率10位圏内に福岡県が8地点入った。
一方、商業地の中でもオフィス用途は「店舗に比べ、需要は安定的」(国交省)との声がある。ただ、テレワークの拡大と首都圏では23年以降にオフィスの大量供給計画があるため「オフィスの賃貸市場は軟調」(JLLの谷口学氏)との指摘もある。訪日外国人需要が当面、見込めない中、オフィス用途も需給が緩み、商業地の地価はしばらく弱含む展開が続きそうだ。
【住宅地】
住宅地は20年度の0・7%減から0・5%減へ下落率を縮小した。大阪圏は下落が続いているが、東京圏と名古屋圏は20年度の下落から上昇に転じた。コロナ禍で自宅にテレワーク用の書斎を求めるなど新たなニーズが広がり、首都圏ではマンション市場が活況を呈している。
不動産経済研究所によると、8月の首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)新築マンション発売戸数は、前年同月比16・2%増の1940戸となり、東京23区ではマンションの平均販売価格が1億円を超えた。9月に日経平均株価が3万円台を回復するなど「株高で高額物件の販売が好調」(角田卓也大和ハウス工業マンション事業本部部長)という。
首都圏では需要に対し売りに出る住宅地が少なく「相場の1・2倍の価格設定で落札される用地も出始めた」(角田部長)。地価の上昇に加え、労働力不足から建設費は高止まりし、「マンション価格は今後も上昇傾向が続く」(不動産経済研究所の松田忠司主任研究員)見通しだ。
一戸建て住宅の販売も好調だ。国交省の建築着工統計によると、7月の一戸建て住宅の着工戸数は同13・1%増の1万2242戸と3カ月連続で増加した。日銀の金融緩和はしばらく続くとみられ、低金利も後押しとなり住宅地の地価は今後も堅調に推移しそうだ。
【工業地】
工業地は20年度の0・2%から0・8%へ上昇した。東京圏と大阪圏はともに上昇率を拡大し、名古屋圏は20年度の0・6%減から1・2%増に転換した。地方圏もプラスに転じ、全国的に上昇傾向が鮮明となっている。
工業地の全国上昇率1位は沖縄県豊見城市で、上昇率は28・9%と20年度と同数字となり、全用途でも上昇率は全国1位だった。売りに出る土地が限られる中、「ECの拡大で物流施設需要が旺盛となり、地価が上昇した」(国交省)。福岡県志免町は工業地の上昇率2位に、愛知県飛島村は同4位に入り、いずれも道路の交通アクセスに優れる点が物流施設適地と評価されている。
都心では、物流施設の需給逼迫が顕著だ。一五不動産情報サービスによると、7月の東京圏の物流施設(賃貸)の空室率は1・3%、関西圏は1・9%と、5%を下回ると需給が引き締まる中、極めて低い数字になっている。東京圏の募集賃料は1坪(3・3平方メートル)4470円と、19年7月に比べ350円高く、関西圏も同時期に420円上昇した。
大手不動産首脳からは「物流施設の用地取得競争は過熱しすぎ」と悲鳴も漏れる。日本のEC化率はまだ米中に及ばず、さらに拡大の余地がある中、工業地の地価は上昇傾向が続きそうだ。