有機稲作の拡大へ。スマート化で競争力を出せるか
井関農機が稲作の有機農業で、スマート技術を活用した実証の取り組みを進めている。日本の農業で有機農業の占める割合は1%程度に過ぎない。環境に優しい農業を推進する農林水産省は、これを25%にする高い目標を掲げる。有機農業は農薬や化学肥料を使わない分、人間や環境に優しいが、弱点はやはり高コスト。この問題を解決しない限り、本当の意味での普及は難しい。スマート技術でコストを引き下げ、競争力を出せるかがカギを握る。(編集委員・嶋田歩)
井関農機は3月に、千葉県木更津市と連携協定を結んだ。自動抑草ロボットを開発する有機米デザイン(東京都小金井市)とも提携した。抑草ロボットは全地球測位システム(GPS)と太陽光パネルを搭載し、水田の中を自律航行する。水中をかき回し、底の泥を巻き上げて日光を遮り、水面下の雑草成長を抑制する仕組み。しろかきや田植え時期から実際の水田で、走行試験を続けている。
抑草ロボットと並ぶスマート技術が、水位センサーと給水ゲートだ。それぞれ消費税込みで1万9800円と5万2800円で販売している。夏場は高温なため水田の水がすぐに干上がり、稲の根がダメージを受ける。水田にセンサーを設置し、アプリケーション(応用ソフト)をダウンロードするだけで水位を10分間隔で超音波により測定し、スマートフォンに送信。水が足りないときは給水ゲートを開いて水田に水を入れる、多いときは排出するなどの対応が自動でできる。
有機農業の水田は手間がかかる分、一般の水田より規模が小さい。離れた場所に複数の水田が散在する例も多い。中山間地などでは水田を1枚ごとに軽トラックで見て回るだけでも大変な作業だが、センサーと給水ゲートで手間を抑制できる。高齢作業者の農家では特にこのメリットが生きる。
抑草ロボットの実験では雑草の成長を抑える効果は確認できたが「水田の深さを均一にすることが新たな課題」(井関農機)という。水田内は平らなように見えても、実際は雑草取りで人間が入ったり、水流や土質の違いなどさまざまな理由で高低差が発生する。ロボットが水面を動く際に水深が足りないとうまく動かなかったり、稲を傷めてしまったりするリスクがある。
また農地集積と大規模化で複数の水田を一つにまとめた場合、元の水田の土質や長年の肥料のやり具合によって、箇所により稲の生育に差が出る。育ちすぎた場所は肥料を減らし、足りない稲に肥料を多く与えるなどのきめ細かな管理が必要だ。これらについてはセンサーで施肥の量をコントロールする独自技術で対応する方針だ。
秋を迎えた今、まもなく刈り取りシーズンに入る。コンバインで刈り取ったときに分かる収量や味の良さが人手による従来栽培と比べて遜色がないかどうかが、第一の関門だ。スマート技術やロボットで人件費を抑制できても、肝心のコメの品質が下がってしまっては元も子もない。さらに倒伏が多いと刈り取りに時間がかかるためコストが上がり、この防止技術もポイントになるなど、課題は多い。