ソフトバンクの投資部門がロボット技術の競技会に開発者で参戦する狙い【動画あり】

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国際ロボット競演会「ワールド・ロボット・サミット(WRS)2020」にはベンチャー投資におけるデューデリジェンス(企業価値査定)部門の研究者も参戦している。ソフトバンクのテクノロジーベンチャーの価値を計る部隊が、自分たちでもロボットを開発して競技会に挑戦する。投資家と開発者の関係ではなく、開発者の中に開発者として入ることで見える世界が変わる-。ロボットベンチャーへの投資プロセスを変える分岐点になるかもしれない。

「ロボット技術の評価は自分で作ったことがないとできない。デューデリに開発者が必要な分野だ」とソフトバンクのチーフサイエンティスト室の沼井隆晃氏は説明する。WRSにチームリーダとして参戦している。

一般的に、投資会社は数千万円から数億円程度の少額出資でベンチャー側の経営実態を把握する。だがソフトバンクには実際にロボットを開発して鑑識眼を磨き、競技会場で技術水準を調べる部隊が存在する。高度なすり合わせ要素の多いロボットならではのアプローチだ。ベンチャー投資とインテグレーション(統合)ビジネスとを結ぶ架け橋になる。

ロボット開発はすり合わせの極みだ。ソフトとハード、センサーやアクチュエーターなど、一つの技術の価値が周辺の技術との整合性で決まる。世界一を誇る要素技術でも、周辺システムとインテグレーションできなければ価値はない。

コンビニ陳列ロボの動作を確認する沼井氏(左から2人目)。7自由度の細い手を棚の奥に入れてハンドカメラでおにぎりたちを識別する

例えば「SLAM(位置推定と地図作成を同時に行う技術)のソフトウエアが“ウリ”ベンチャーを調べると、実態は高性能なLiDAR(ライダー)で高精度を達成していたということが起きる」(沼井氏)。ソフトのベンチャーの心臓を握っていたのは別会社の高性能センサーだったという落ちの話だ。

ロボットではこうした周辺技術とのすり合わせが無数にある。そのため多彩な技術を社内にポートフォリオとしてそろえ、顧客に応じて組み合わせてソリューションとして提供するインテグレーションビジネスが多くを占める。

特に市場が成長していないサービスロボット分野にこの傾向が強い。いわば限られたお客に高度な技術サービスを提供するビジネスモデルだ。これは特定の重要技術を押さえて、テックベンチャーの企業価値を最大化する投資とは違ったアプローチになる。

そこでソフトバンクは自分たちでもロボットを開発する。競技のテーマはコンビニの棚におにぎりなどの商品を並べ、賞味期限が切れていたら回収して廃棄するというシンプルな内容だ。コンビニの設備市場参入が目的でなく、ロボットの開発を通して鑑識眼を磨く。

沼井氏は「重作業用のモーターは産業用ロボのおかげで製品がそろう。だが軽作業用ではいいモーターがない。市場がなかったためか、値段と性能のバランスがとれたアクチュエーターがない」と指摘する。

WRSは世界からロボット技術が集まる場だ。同じ競技でもチームの数だけアプローチが変わる。競技会を通して各アプローチの得手不得手が整理され、大学研究者らはコードを公開する。こうして、すり合わせの経験が共有されていく。沼井氏は「我々は市販で手に入る部品や技術で、どこまでいけるか試した。ロボットとしては変わったところはない」と明かす。ソフトバンクは10日のコンビニの陳列種目では、「やりたいことは一通り達成した。今後は商品の認識を高度化したい」(沼井氏)。WRSの残りの期間で、どの技術がどのレベルにあるか調べて回る。

コロナ禍でWRSは無観客開催となった。観客であれば現地に参加できなかったが、競技者として参加したため、開発者コミュニティーの内側から技術を分析できる。

WRSものづくり部門で競技委員長を務める横小路泰義神戸大学教授は、「一見すごく見えるロボットも、ふたを開けるとたいしたことがないことはままある。投資家自身が開発もし、鑑識眼を磨くのは重要」と指摘する。開発者兼投資家がロボット業界にどんな変化をもたらすか注目だ。

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COMMENT

小寺貴之
編集局科学技術部
記者

ソフトバンクには投資部門にロボット開発部隊があります。デューデリのためには自らロボット開発もやむなしという姿勢は、ベンチャーにお小遣い渡して勉強するVCとはひと味違います。大きな研究所をもつ通信会社もあったりしますが、研究所と事業部との連携も苦労していたりします。ボスが違えば開発姿勢も違うんだなと思う次第です。

キーワード
ロボット WRS

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