「減災」を日本の基幹産業に!シェルターなど救命製品が市場に受け入れられ始めた
「減災・サステナブル学」提唱10年
災害による死者ゼロを目指し、千葉大学の浅沼博教授が「減災・サステナブル学」を提唱して10年が経過した。非常時はもちろん、日常でも機能を発揮する技術の普及によって日本を「減災産業立国」にする壮大な目標を掲げる。最近、中小企業が開発した救命製品が市場に受け入れられており、目標の実現に向けて動きだした。
【人が乗って避難】
湖面に浮く物体には窓があり、室内にはテーブルや座席もある。小さな遊覧船のようだが、住宅メーカーの小野田産業(静岡市清水区)が開発したシェルターだ。津波や洪水の発生時、人が乗って避難する。発泡スチロール製だが、米国防総省で採用されている特殊樹脂を塗って防水性や強度を高めた。幅3・24メートル、長さ3・24メートル、高さ2・25メートルのシェルターは15人も乗船できる。車1台のスペースに置ける家庭用シェルターも品ぞろえする。
普段は水遊びなどのレジャーでの利用を想定する。室内には照明やコンセントもあるため、子ども部屋や趣味の部屋としても活用できる。浅沼教授は「非常時しか使えないと購入に踏み切れない。日常的にも使えることが経済活動としても必要であり、減災・サステナブル学のポイント」と語る。実際、発泡スチロール製シェルターは国内で15台、インドネシアでも1台の納入実績がある。
【津波に備える】
ミズノマリン(大阪府豊中市)は救命艇シェルターを販売する。外観は小型船に近く、外部からの水の浸入を防ぐ構造になっている。波で横転しても元の姿勢に戻るため、津波に襲われても乗船した人の安全が保たれる。これまでに25人乗り3艇を含む合計6艇が売れ、現在も2艇の受注を抱えている。新宮ガス(和歌山県新宮市)も救命艇シェルターを配備する1社。同社は津波発生時、市内へのガス供給を停止してから従業員が避難することになっている。事業所には津波が10分で到達すると予想されており、従業員を守るため導入したという。
販売実績がある製品がある一方で、まだ普及が進まない製品もある。やはり、必要となるのが平時での機能だ。製品によっては普段使いが困難な場合もあるので、浅沼教授は解決策として芸術との融合を提案する。著名な作家が作品を描くことでシェルターなどに芸術的価値を持たせる。これも減災・サステナブル学の考え方だ。
【すべての命救う】
浅沼教授は2018年、異分野の交流で画期的な発想を生みだそうと、企業が参加する減災サステナブル技術協会も設立した。「減災は基幹産業になる。世界各地で災害が起きており、海外に貢献することで日本の国際的プレゼンスが上がる」(浅沼教授)と力説する。地震や台風が多発する環境を逆手にとると、日本が世界をリードできそうだ。
また、減災産業の発展に必要な視点として「すべての人命救助」を強調する。技術が発展しても災害で多くの人命が奪われている現状にじくじたる思いがあるためだ。「すべての命を救うことは、SDGs(持続可能な開発目標)の理念である“だれ1人取り残さない”に通じる」と訴える。