図面レス、製図レスとは?日本と欧米で異なる、3Dデータ活用の考え方
3DAモデルとDTPD
JEITA 三次元CAD 情報標準化専門委員会では、JEITA 規格ET-5102「3DAモデル規格―データム系、JEITA 普通幾何公差、簡略形状の表示方法について―」の中で3DA モデル(3D Annotated Models:3D 製品情報付加モデル)とDTPD(Digital Technical Product Documentation:デジタル製品技術文書情報)を定義している。
3DA モデルは、製品の三次元形状に関する設計モデルを中核として、寸法公差、幾何公差、表面性状、各種処理、材質などの製品特性と、部品名称、部品番号、使用個数、箇条書き注記などモデル管理情報とが加わった製品情報のデータセットである。パート(単部品)または組立品(複数部品より構成される組立品)でもある。3DA モデルは、製品設計部門が責任をもって作成するものであり、製品特性において寸法公差中心から幾何公差中心への切り換えにより、設計意図を一義的に定義して品質向上を図ることができるという特徴を持っている。3DA モデルには2つの要件が求められる。
① 3DA モデルで設計情報を完全に表現できる
設計者は仕様書と、専門知識・過去経験などを照らし合わせて思考検討をし、設計情報を作成する。
② 3DA モデルで設計業務ができる(3DA モデルが設計プロセスで共有できる)
設計業務は、一人の設計者だけで作業が完結するものではなく、複数の設計者が仕掛りの設計情報を共有して検討を繰り返し最終的な設計情報に仕上げなければならない。3DA モデルは3 次元CAD によって作成された可視化情報であり、複数の設計者が共有しながら設計業務を遂行できるものである。
DTPD は、3DA モデルを中核として、製品製造に関連する各工程、例えば、解析、試験、製造、品質、サービス、保守等に関する情報が連携した製品製造のためのデジタル形式の文書情報である。DTPD は3DA モデルと連携して各工程で使用する情報として、各工程で作成責任をもって作成され、全体が関連を持った状態で管理されている。3DA モデルは原則的にDTPD に含まれる。また、DTPD は最終成果物ではなく、プロセスに応じて作成されていくデータであり、段階的な管理も認めている。DTPD には2 つの要件が求められる。
① 3DA モデルからDTPD が生成できる
生産工程・製造工程・計測工程の専門家が3DA モデルを利用して工程特有の属性を付加して専門知識・過去経験・思考検討からDTPD を作成する。工程の専門家は工程特有のデジタルエンジニアリングツール(デジタルマニュファクチャリングツール・CAD/CAM・CAT)を利用する。
② DTPD で工程の作業が行える
3DA モデルを含んだDTPD は対象の生産工程・製造工程・計測工程で使用され、最終成果物を作成するものである。
日本と欧米の機械設計の違い、図面レスと製図レス
日本における製品開発では、3DA モデルからDTPD を作る。3 次元CAD 導入時には、2D 図面から3DA モデルへの置き換えを考えたが、2D 図面と3D モデルを併用する移行期間が必要と考えた。2D 図面と3D モデルの2 種類の設計情報がある場合、紙に印刷した2D 図面と3D データに食い違う部分があるときは3D データが正しい。これを3D 正と定義している。
日本では、3D 正の定義に基づき設計情報は3D データだけの図面レスを考えた。図面並みに3D データを仕上げる施策(3D 単独図)に対して、3 次元CAD に図面並みの情報を作成する機能はなく、JIS/ISO/産業界の規格通りに書けなかった。3D データを直接使うために正しい形状が表現されている施策に対して、形状省略なしでは膨大なデータ量と手間が発生し実用的な運用ができない。公差考慮の3D データの定義は不可である。従って、図面は必要との結論に至り、「3D モデル+2D 簡略図」の運用が長く続いた。2D 簡略図は、形状は3D データからの投影形状だが、寸法線・注記・公差・詳細断面図は2D 簡略図作成工程で付加されるものであり、厳密な意味で3D データとは異なり、3D 正には至らなかった。
一方で、欧米ではMBD(設計情報の完全3D デジタル定義:Model Based Definition)コンセプトにより、設計情報を全て3D データに包含して、3D → 2D変換により製図レスで、3D 正を強力推進している。図1 に製図レスと図面レスの違いを示す。従来は3D モデル定義後に製図工程で寸法線・注記・公差・詳細断面図を追加しており、3D モデルと2D 図面の設計情報は異なっており設計情報が二重に管理されている。そのために図面レスは難しく非常に効率が悪い。MBD では、3D モデルに全ての設計情報が入っており、ビューワには3D モデルのまま、3D モデルをビュー平面に投影し図面枠を被せることで紙媒体の2D 情報も作成することができる。設計情報を多重に管理する必要がなく、製図工程を削減できる。
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日刊工業新聞ブックストア
<書籍紹介>
昨今の機械設計において、3次元設計手順は各社のノウハウとなっているが、3Dモデルはグローバル規模で標準データでなければ流通しない。JEITA三次元CAD情報標準化専門委員会では、設計情報のデータ化の方法をまとめて3DAモデルとして定義、JIS化を進めている。本書は、その定義に基づき、電機精密の製品開発で実践された3次元設計の手順と方法を示した専門書。
書名:3DAモデル(3次元CADデータ)の使い方とDTPDへの展開
24の3DAおよびDTPDの設計開発プロセス(ユースケース)を体系化
著者名:一般社団法人電子情報技術産業協会 三次元CAD情報標準化専門委員会
判型:A5判
総頁数:272頁
税込み価格:2,860円
目次(一部抜粋)
第1章 3次元設計における基本的な考え方
第2章 3次元設計の国際標準化動向
第3章 3DAモデルによる3次元設計
第4章 3DAモデルを利用したDTPDの作成
第5章 DTPDの作成と運用
第6章 新しいものづくりへの展開