製鉄所のシンボル「高炉」。鉄鋼各社が急ぐデジタル化の行方
デジタル化急ぐ
製鉄所のシンボル的存在、高炉。そのデジタル化を鉄鋼各社が急いでいる。中でもJFEスチールは、高炉の状況を情報システム上でリアルタイムにシミュレーションするサイバー・フィジカル・システム(CPS)化をいち早く実現。操業の安定や立ち上げの迅速化などの成果を上げている。
西日本製鉄所福山地区(広島県福山市)が擁する3基の高炉の中でも、第5高炉は炉容積5500立方メートルと同社最大。制御室の中は驚くほど静かで涼しい。24時間365日にわたる高炉の操業を、制御室3人、炉前作業4人の7人で受け持っている。操業体制は極力、効率化されている。
さまざまなモニターや計測データの表示器などが並ぶ中で、操業をサポートしているのが高炉CPSによって実現した「炉熱制御ガイダンスシステム」だ。高炉1基につき約1000個にのぼる各種センサーから得たさまざまなデータを基に、炉内の状況をシミュレーション。高炉から出てくる溶けた銑鉄の温度が最適な幅に収まるようガイダンスする。
具体的に福山では、8時間後の溶銑温度が1510度Cプラスマイナス10度Cの幅に収まるよう、炉に送る風の湿度や、吹き込む微粉炭の量を刻々と教示する。人間が経験を基に下していた判断を部分的に肩代わりするという意味では、人工知能(AI)と呼べるだろう。「8―10時間も先まで予測できる点では、当社が一番進んでいると思っている」と、同社スチール研究所の伊藤友彦主任研究員。
ひと月早く復帰
高炉CPSの成果はほかにもある。2020年6月、コロナ・ショックによる鉄鋼需要の落ち込みを受けて、福山では第4高炉を一時、送風休止(バンキング)した。8月26日に送風を再開。10月下旬に通常操業に戻る計画だったが、ひと月早い9月17日にフル操業へと復帰できた。CPSによるシミュレーションのおかげだ。
CPS化推進
今後の取り組みについて、福本泰洋福山地区製銑部製銑技術室長は「次のレベルでは(ガイダンスからさらに進んで)高炉の操業自体をある程度、オートメーション化できるようにしたい」と話す。
さらに同社は、製鋼や圧延といった製鉄所のすべてのプロセスのCPS化を進める。24年度までの間に検討・準備を進め、25年度から着手する計画だ。日本の製造業を引っ張ってきた高品質な鉄鋼の生産をどこまでデジタルに落とし込めるのか。実現できれば、鉄鋼業界に大きなインパクトを与えそうだ。(福山支局長・清水信彦)