4年前に南場&出井が語った“日本力”ー何か変わって何が変わっていないのか
「世界中のトップ人材を日本に呼び込む仕組みを」(南場) 「もっと小さいものを大事にする国に」(出井)
ディー・エヌ・エー社長(現取締役ファウンダー)南場智子氏
コンサルタントから転じ、ディー・エヌ・エー(DeNA)を携帯電話サービスのトップ企業に育て上げた南場智子社長。次に見据えるのは世界だ。独自規格の中で進化し「ガラパゴス」と揶揄(やゆ)される日本の携帯サービスだが、「世界で通用する」と自信は揺るぎない。日本の強さをどこに見いだしているのか。起業環境への提言などと合わせて語ってもらった。
―インターネットサービス、スマートフォンの分野で外資企業の攻勢が強まっています。どう見ていますか。
「日本のモバイルサービスは独自規格の中で発展してきた。そこに米アップルや米グーグルの国境のないサービスが入ってきたという状況。『守りに立たされる』と見る向きもあるが、海外に出やすくなったので日本企業にとってもチャンス到来だ。人間がモバイル端末で何をしたいか。(世界一の携帯先進国ともいわれる)日本でサービス展開してきた企業は、その知見を豊富に持っている。外資の攻勢なんて軽く押しのけられるはず」
―日本が独自文化の中で磨き込んだサービスは、モバイル分野以外にもありそうですね。
「閉じられてきたからこそ成長してきた産業というのはあると思う。壁が取り払われた時、独自の強みがある分、攻めに転じやすいのではないか。モバイル分野もそうだが、日本のビジネスは我々の想像以上に海外で注目され研究されている」
―反対に日本人や日本企業の弱い部分は。
「大きく三つあると思う。一つ目はずうずうしく要求することが苦手な点。あうんの呼吸ではなく、何を得たいのかしっかり主張して、それを条件にお金を出すといったやり方をすべきだ。二つ目は意思決定のスピードが遅いこと。三つ目は、文化の違う人たちと本当の仲間になることが苦手な点。均質的な環境の中で育つ日本人は、異文化を尊重しながら自己主張することができないことが多いと感じる」
―いわゆるグローバルスタンダードに追いつく必要があるということですね。その対策は。
「世界中のトップ人材を日本に呼び込む仕組みをつくるべき。その人たちにビジネスのエコシステム(生態系)をまるごと持ってきてもらう。新しい制度が必要になるだろうが、一つの産業で1000人ぐらい来てもらうだけでも大きく変わる」
「もちろん民間企業ができることもある。当社は若手を海外にどんどん出す。しかも新製品開発、市場開拓など厳しい環境に送り込む。そこで異文化の人たちとワンチームになって一つのことを成し遂げる経験を積ませるつもりだ」
―ネットサービスは消費者の反応を見ながら改善していくのが王道です。そうした業界からみて、一般消費財の開発やマーケティング手法はどう映っていますか。
「利用者の反応をデータとして取得し、数字で分析できるのはネットサービスの恵まれた点。私もコンサルタント時代に一般消費財メーカーに関わり、アンケートなどで消費者の声を集める作業をよくやったが、データと声はまったく異なるものだと感じている。消費者の声に頼りすぎるのは危険で、どの業界でもデータをしっかり見ることが重要だ」
―日本で人気のケータイ小説は、指が大きくボタンを押しづらいアメリカ人には受け入れられないと言われてきました。実際には米国でも人気サービスとなりましたね。
「日本企業は海外に出る際、国民性や文化の違いを強調しすぎていないだろうか。人間がワクワクするポイントは共通項が多いというのが私の実感。相手の目を見て思いを伝えるなど組織マネジメントも同じ」
「新参者を押し戻そうという動きはどこの世界にもあるので、初めは失敗するケースもあるが、基本的には日本でヒットしたものは海外でも通じると自信を持っていいのではないだろうか」
―起業して約10年たちました。日本の起業環境は変わりましたか。
「相変わらず起業家は尊敬されず、個人保証をしなければ資金調達が難しい状況も変わっていない。成功すればねたまれ、失敗すれば烙印(らくいん)を押される。これでは頭のいい人は誰も起業しない。起業の数は国力と密接に関係する」
「日本は消費市場として成長できなくても、知的生産拠点として踏ん張るべき。だからベンチャーが生まれやすい文化にしないといけない。当社も頑張ってピカピカの事例になって『起業は悪くない』というメッセージを発信したい」