4年前に南場&出井が語った“日本力”ー何か変わって何が変わっていないのか
「世界中のトップ人材を日本に呼び込む仕組みを」(南場) 「もっと小さいものを大事にする国に」(出井)
2011年。日刊工業新聞は元旦付けの紙面で「2020年の日本力」をテーマに2人の経営者のインタビューを掲載した。ディー・エヌ・エー社長の南場智子氏(現取締役ファウンダー)とクオンタムリープ代表の出井伸之氏(元ソニーCEO)。閉塞感に包まれる日本が2020年に向けて、どのような課題を抱え、それをどう打破していくか、という問いである。
その年、東日本大震災が起こり「国のカタチ」が変わる契機となる一方で、その後、政権交代を経て2020年にオリンピック・パラリンピックの誘致が決まった。リアリストの南場氏、ビジョナリストの出井氏。興味深いインタビューを振り返り、日本の進化を検証する。
ソニーの最高経営責任者(CEO)を退任した後も、より高い視点から日本再生への提言を続けてきた出井伸之氏。産業界で指折りのビジョナリストは現状を「危機」と認識しつつ、日本が変わるチャンスととらえている。
―政治が混迷し、日本は経済や外交で世界におけるプレゼンスが低下しています。
「日本は成熟国なのに政府は“成長戦略”と言っている。成熟期への産業構造転換ができていない。円高で輸出産業が大変だという。しかし、すでにモノづくりの2次産業は国内総生産(GDP)で2割程度しかない。7割はサービス産業だ。第3次産業は電力や金融、小売りまでひとくくりにされ、他国と比較し戦略をつくる詳細な統計もない。しかも業法で守られた業種が多く、官僚がコントロールしている」
―サービス業ではユニクロなど新しい成長企業も誕生しています。
「ユニクロもアップルも自社で工場を持たず、企画とデザインだけをやるブランドカンパニーで、よく似ている。既存の価値を壊しているからもうかるので、全部壊し終わった時には普通の会社になる」
「どんな企業でも既存分野を維持する勢力と、新しいものを創造する勢力のせめぎ合いがある。既存分野が不要なのではなく、肥大化を防ぎ、そこで得た原資をいかに新規分野に投資していくか。そのバランスを見極めるのが経営者の役割だ。政治リーダーは『日本株式会社』でそれを実行できていない」
―大企業では新陳代謝が難しいのでは。
「成長期は自動車を1000万台とかテレビを2000万台つくって規模を追いかければよかった。もう労働集約型や資本集約型の産業は中国や新興国へ仕事が移っている。日本が知識集約型を目指すなら、個人や小企業など、もっと小さいものを大事にする国にならないといけない」
「嵐は5人のユニットでコンサートにあれだけの人が集まる。iPS細胞の研究で1人の天才が出たら、米国ならどーんとお金を出す。マイクロソフトのビル・ゲイツ氏はかつて『競争相手は?』と聞かれ、『どこかのガレージで何かを作っている会社だろう』と答えた。その言葉にイノベーションの本質がある」
―都市も東京ばかりが肥大化しています。
「霞が関、大企業の本社、メディアもすべて集まり、21世紀になっても国のガバナンスは“メーンフレーム型コンピューターシステム”のままだ。政令指定都市である福岡市の行政権限はシアトルよりも狭い。アジアとの連携に視野を広げたくても限界がある」
「ただし現状の枠組みのまま道州制を導入してもうまくいかない。まず官僚がしないこと、九州の広域行政でできることを決めることが先だ。もし私が首相なら大臣制を変えるだろう。今の“省益大臣”を廃してネットワーク型に合った“国益大臣”をつくる」
―環太平洋連携協定(TPP)などは、まさに省益がぶつかり合っています。
「農家戸別所得補償のような場当たり的な対策ばかりで、産業構造を変える本質的な議論が欠けている。林業でいうと、植林など森林育成で日本は世界でも有数の水準にあると思う。しかし木材の使い道が少ない。電力でいう送電、配電の仕組みがない。例えば監督官庁が異なる1次、2次、3次産業が連携し、伝統的な木造建築を普及させることに資金や人材を投入すべきではないか」
―出井さんは1990年ごろから日本が停滞期に入ったと指摘されています。
「産業構造の変化を見誤り、その間に米国はITと金融で復活した。もちろん過去の検証も大事だが、将来この国はどうなるのか、どうするべきかという未来視点とビジョンを、国民、企業、政治家が共有し統一すること。それを実行する強い意志を世界に表明することが重要だ」
「坂本竜馬たちがやったのは欧米に対する開国。これからはグローバルへの開国で、特にアジアとの関係をどう構築するかが問われている。戦後処理の問題などの壁はあるが、成熟国家として大人の対応というものがあるはずだ」
―「失われた20年」を取り戻すには20年かかるということでしょうか。
「成熟期は成長期に比べ変化のスピードが遅い。ただ日本の歴史をみても、何回も大転換をしてきた。こんな国は世界でもまれだと思う。変化の兆しは多くあり、いろんな人たちが発信を始めている。私には2030年には復活するという自信がある」
その年、東日本大震災が起こり「国のカタチ」が変わる契機となる一方で、その後、政権交代を経て2020年にオリンピック・パラリンピックの誘致が決まった。リアリストの南場氏、ビジョナリストの出井氏。興味深いインタビューを振り返り、日本の進化を検証する。
クオンタムリープ代表 出井伸之氏
ソニーの最高経営責任者(CEO)を退任した後も、より高い視点から日本再生への提言を続けてきた出井伸之氏。産業界で指折りのビジョナリストは現状を「危機」と認識しつつ、日本が変わるチャンスととらえている。
―政治が混迷し、日本は経済や外交で世界におけるプレゼンスが低下しています。
「日本は成熟国なのに政府は“成長戦略”と言っている。成熟期への産業構造転換ができていない。円高で輸出産業が大変だという。しかし、すでにモノづくりの2次産業は国内総生産(GDP)で2割程度しかない。7割はサービス産業だ。第3次産業は電力や金融、小売りまでひとくくりにされ、他国と比較し戦略をつくる詳細な統計もない。しかも業法で守られた業種が多く、官僚がコントロールしている」
―サービス業ではユニクロなど新しい成長企業も誕生しています。
「ユニクロもアップルも自社で工場を持たず、企画とデザインだけをやるブランドカンパニーで、よく似ている。既存の価値を壊しているからもうかるので、全部壊し終わった時には普通の会社になる」
「どんな企業でも既存分野を維持する勢力と、新しいものを創造する勢力のせめぎ合いがある。既存分野が不要なのではなく、肥大化を防ぎ、そこで得た原資をいかに新規分野に投資していくか。そのバランスを見極めるのが経営者の役割だ。政治リーダーは『日本株式会社』でそれを実行できていない」
―大企業では新陳代謝が難しいのでは。
「成長期は自動車を1000万台とかテレビを2000万台つくって規模を追いかければよかった。もう労働集約型や資本集約型の産業は中国や新興国へ仕事が移っている。日本が知識集約型を目指すなら、個人や小企業など、もっと小さいものを大事にする国にならないといけない」
「嵐は5人のユニットでコンサートにあれだけの人が集まる。iPS細胞の研究で1人の天才が出たら、米国ならどーんとお金を出す。マイクロソフトのビル・ゲイツ氏はかつて『競争相手は?』と聞かれ、『どこかのガレージで何かを作っている会社だろう』と答えた。その言葉にイノベーションの本質がある」
―都市も東京ばかりが肥大化しています。
「霞が関、大企業の本社、メディアもすべて集まり、21世紀になっても国のガバナンスは“メーンフレーム型コンピューターシステム”のままだ。政令指定都市である福岡市の行政権限はシアトルよりも狭い。アジアとの連携に視野を広げたくても限界がある」
「ただし現状の枠組みのまま道州制を導入してもうまくいかない。まず官僚がしないこと、九州の広域行政でできることを決めることが先だ。もし私が首相なら大臣制を変えるだろう。今の“省益大臣”を廃してネットワーク型に合った“国益大臣”をつくる」
―環太平洋連携協定(TPP)などは、まさに省益がぶつかり合っています。
「農家戸別所得補償のような場当たり的な対策ばかりで、産業構造を変える本質的な議論が欠けている。林業でいうと、植林など森林育成で日本は世界でも有数の水準にあると思う。しかし木材の使い道が少ない。電力でいう送電、配電の仕組みがない。例えば監督官庁が異なる1次、2次、3次産業が連携し、伝統的な木造建築を普及させることに資金や人材を投入すべきではないか」
―出井さんは1990年ごろから日本が停滞期に入ったと指摘されています。
「産業構造の変化を見誤り、その間に米国はITと金融で復活した。もちろん過去の検証も大事だが、将来この国はどうなるのか、どうするべきかという未来視点とビジョンを、国民、企業、政治家が共有し統一すること。それを実行する強い意志を世界に表明することが重要だ」
「坂本竜馬たちがやったのは欧米に対する開国。これからはグローバルへの開国で、特にアジアとの関係をどう構築するかが問われている。戦後処理の問題などの壁はあるが、成熟国家として大人の対応というものがあるはずだ」
―「失われた20年」を取り戻すには20年かかるということでしょうか。
「成熟期は成長期に比べ変化のスピードが遅い。ただ日本の歴史をみても、何回も大転換をしてきた。こんな国は世界でもまれだと思う。変化の兆しは多くあり、いろんな人たちが発信を始めている。私には2030年には復活するという自信がある」