電気制御不要!低予算で効果的な「からくり設計」を学ぼう(その1)
「機械設計」8月特別増大号では「目的別に学ぶ からくりのメカニズム設計入門」を特集。複雑な電気制御をしなくても、基本的な機械要素部品を工夫して組み合わせることで、低予算で効果的な動きを実現する「からくり設計」について、事例やイラストを多用してやさしく解説する。
からくりメカニズムでは、運動を伝達するときにリンク機構を使った連結をすることがよくありますが、リンクの運動方向によっては簡単に連結できない場合も出てきます。まず、リンクの連結の基本の仕組みを理解して、うまく連結できないときの対処方法を考えてみましょう。
解説1-1 リンクの連結方法
(1)レバーの運動
リンクメカニズムを構成するレバーは、支点、力点、作用点の 3つの力の点を持っています。図1―1―1のようなL型のレバーでは、固定されている支点を中心に力点と作用点は円弧を描いて移動します。力点と作用点は支点を中心とした円の接線方向に移動するので、図1-1-1のように 90°曲がっているレバーの力点を動かすと作用点は90°方向変換された動きをします。このような90°変換するレバーを「レクタ」と呼んでいます。
(2)レクタを使った90°変換
例えば図1―1―2のように、直動ガイドされた水平入力でレクタのA側を動かすと、B側から垂直出力を取り出すことができます。AからA′への移動は円弧の運動になって水平運動する直動ガイドの動きから外れた動作をするので、リンク棒を使って軌道の違いを吸収しています。
このように、直線運動と同じ向きの揺動(往復円弧)運動に連結するときには、図1―1―3のようなコンロッドやリンク棒を使います。
図1―1―4は180°方向変換するレバーである「リバーサ」を使ってクレビスシリンダの出力を反転して出力ブロックを動かすメカニズムです。出力ブロックは直動ガイドされているので直線の動作をしますが、リバーサは円弧を描いて直線から外れた動きをするので、その相違を吸収するためにリンク棒で連結しています。
(4)スラッドを使った連結
リンク棒やコンロッドを使わずに直接的に連結するには「スラッド」を使います。図 1―1―5のようにリバーサの連結部分にスラッドと呼ばれる溝をつけて、出力ブロックに立てたピンを駆動します。リバーサが円弧運動するとピンと支点の距離が変化するので、その変化分をスラッドの溝で吸収しています。
図1―1―6はレバー同士をコンロッドで連結した例です。クレビスシリンダで入力レバーを駆動し、出力レバーとはコンロッドを使って連結しています。図 1―1―7はクレビスシリンダが引っ込んだときの状態です。入力レバーの回転角度が比較的小さいときは問題ありませんが、移動量が大きくなって図の角度θが小さくなると不安定になることがあるので注意します。
レバー同士を連結するときにもスラッドとピンを使って直結することができます。図1―1―8はその例 で、入力レバーにスラッドをつけて、出力レバーにつけたピンを駆動しています。一方、レバーと直動ガイドされた出力ブロックを連結するには「グルーブ」が使えます。図1―1―9はグルーブを使ってレバーの円弧運動を直動に変換しています。
著者略歴
新興技術研究所 専務取締役 熊谷英樹(くまがい・ひでき)
略歴
1981年 慶應義塾大学工学部電気工学科卒業。
1983年 慶應義塾大学大学院電気工学専攻修了。住友商事株式会社入社。
1988年 株式会社新興技術研究所入社。
現在、株式会社新興技術研究所専務取締役、日本教育企画株式会社代表取締役。山梨県産業技術短期大学校非常勤講師、自動化推進協会理事、高齢・障害・求職者雇用支援機構非常勤講師。
著書
「必携『からくり設計』メカニズム定石集-ゼロから始める簡易自動化」
「ゼロからはじめるシーケンス制御」
「必携 シーケンス制御プログラム定石集」
「絵とき PLC制御基礎のきそ」
ほか多数
雑誌紹介
雑誌名:機械設計2021年8月号
判型:B5判
税込み価格:2,035円
内容紹介
機械設計 2021年8月号 Vol.65 No.9特集「目的別に学ぶ からくりのメカニズム設計入門」 全10章構成で、全章を新興技術研究所(東京都世田谷区)の熊谷英樹専務が執筆した。第1章から第8章は、からくりの基本である「運動の伝達」「運動特性」「ガイド」に着目。まずリンクの連結の仕組みや、うまく連結できないときの対処方法を説明する。次に運動特性のつくり方のうち、回転と直動を複合した動作や、移動端で一時停止する往復運動などをつくるためのからくりを紹介する。また、プレスリムーバやメカニカルチャックの設計例を使って、ツールのガイド方法を解説する。第9章では、制御装置を使わずにからくりを制御する方法、第10章ではからくりを使って生産性を上げる手法を解説する。