移乗支援ロボットがもたらすハグの効果とは?介護職員も入居者も明るく
介護職員の負担軽減
高齢者介護での負担が大きな支援の一つが、自力だけでは立てない、立っていられない人を支えベッドや車椅子、便座に移らせる「移乗」だ。介護老人福祉施設「長寿の里・十四山」(愛知県弥富市)は2017年5月にFUJI製の移乗支援ロボット「Hug(ハグ)T1」を導入した。山田信吾施設長は「入居者にも好評。(介護職員の負担が減り)気兼ねなくトイレに行ける」と導入効果を実感する。(名古屋編集委員・村国哲也)
高齢者介護施設には大柄の入居者もいる一方で小柄の介護職員もいる。移乗時に介護職員が入居者を1人で支えきれるとは限らない。転倒などの危険を避けるため無理はできず、トイレでは便座への移乗を2人で介助し、移乗自体にも時間がかかった。腰痛を患う介護職員もいて「遠慮してトイレを行きたいと言えない入居者もいたと思う」と山田施設長は振り返る。
FUJIは主力の電子部品実装機の技術を生かし、3年をかけてハグを開発し、16年4月に発売した。開発コンセプトは「本人が自分の意思で動くこと」だ。人が立ち上がる動作を研究し、利用者を持ち上げずにあくまで動作を補助する機能を追求した。
長年、移乗支援の負担軽減を模索していた長寿の里・十四山はこのコンセプトに呼応した。半年間のテスト導入で非常勤を含む約60人の介護職員が利用に立ち会いハグを高く評価。17―19年度に毎年1台ずつハグT1を導入した。さらに20年度には在宅介護用で軽量な「ハグL1―01」も施設用に2台購入している。
長寿の里・十四山は特別養護老人ホームとショートステイで計100人が入居する。7―9人を1ユニットとし、各1人の介護職員を配置している。ハグ導入以前は2人がかりの移乗支援もあり、介護職員がユニットから不在になることで事故発生リスクが高まることも課題だった。
導入後を山田施設長は「『ハグを持ってきて』と入居者が気軽に言える。ハグがある新しい生活をみんなが受け入れた」と感じている。介護職員のユニットを空ける時間や腰痛も激減した。
一方でハグT1には「重い」「高価」などの課題もあった。長寿の里・十四山はデモ機の試用で新型ハグの開発にも協力した。結果、FUJIは「ハグT1―02」を19年10月に発売。前モデルに比べ重量は30キログラム減の35キログラム、消費税抜きの価格は102万円安い98万円を実現した。
ハグは人材確保にもつながっている。「小柄で力に自信がない求職者も安心してくれる」(山田施設長)とし、求人説明会でも積極的にアピールしている。また「介護度のより高い人向けの機器導入も検討したい」(同)と、介護職員の職場環境をさらに改善する考えだ。ただし何でもロボットに置き換えることには否定的。「人と人との関わりを大切にし、ロボットは、介護職員を助けて明るい職場を作るために使いたい」と山田施設長は話す。