ニュースイッチ

食料危機を救うか、世界中で研究進む「培養肉」の今

食料危機を救うか、世界中で研究進む「培養肉」の今

19年度に作製に成功した縦10ミリ×横8ミリ×厚さ7ミリメートルの培養ステーキ肉(東大・竹内研究室提供)

培養ステーキ肉に挑戦

天然肉を口にするのが難しくなるかもしれない―。農林水産省が2019年に公表した50年の世界の食料需給見通しによると、肉類の需要量は10年比で1.6倍に拡大する。世界人口が50年に100億人に迫る中、経済発展や食生活の変化から、中所得国で肉類需要が増加するためだ。このため、環境の変化に影響されず、持続可能な方法として、代替肉としての「培養肉」の研究が世界中で進められている。(山谷逸平)

【JSTが採択】

「培養肉」は動物の個体そのものではなく、動物の細胞を体外で培養して増やし、増やした細胞で組織形成して得られた肉を指す。食料危機や環境保護、動物愛護、衛生面の観点から従来の食用肉の代替として期待される。既に世界中で培養肉の研究が行われているが、ミンチ肉の研究が大半だ。

国内では東京大学生産技術研究所の竹内昌治教授らが肉本来の食感を持つステーキ肉を培養肉で実現しようと、牛の筋細胞を用いた「培養ステーキ肉」の研究を進める。

科学技術振興機構(JST)の未来社会創造事業のうち、「持続可能な社会の実現」領域で、18年度に竹内教授らの研究が採択。JSTの委託研究として19年度に縦10ミリ×横8ミリ×厚さ7ミリメートルの培養ステーキ肉の作製に成功した。

20年度からはさらに一歩進んだ「本格研究」で採択され、24年度末までに同7センチ×同7センチ×同2センチメートル、重さ約100グラムの肉塊の実現を目指している。

本格研究では竹内教授らの3次元筋組織構築技術のほか、大阪大学による血管や脂肪の細胞を培養する技術、東京女子医科大学による藻類由来の培養液開発技術を結集。ほかに筑波大学、弘前大学、早稲田大学、日清食品ホールディングスが参画している。

培養ステーキ肉は足場を用いて細胞を3次元的に培養することで、厚みを増すことを可能にしたのが特徴だ。また、筋細胞を培養で増やし、隣接する細胞同士を融合させて縞(しま)状模様を持つ筋線維を形成。筋線維を一定方向にすることで肉のかみ応えを再現した。竹内教授は「肉厚のある、筋線維のそろった組織を作る手法を提案した点が従来法との違い」と強調する。

【かみ応え】

最新の研究では、「作製した培養肉に電気刺激を与えると筋線維の割合が増え、収縮する」(竹内教授)ことを確認。さらに筋細胞の培養日数を長くすれば本物の肉をかんだ時のかみ応えに近づくことも分かった。

だが、培養肉が世の中に受け入れられるためには課題も多い。竹内教授が挙げるのは技術的課題や文化的課題だ。まずはどこまで本物に近づけられるか。本格研究では、肉塊の大きさ、培養液のコスト削減、大量培養の方法に加え、味やかみ応えという技術的課題に挑戦する。

文化的な課題は培養肉が天然肉に置き換わる、あるいは培養肉と天然肉を食べることが共存できるかどうかだ。竹内教授は「天然の肉の入手が難しくなった時、選択肢の一つとして提示できるようにしたい」としている。

日刊工業新聞2021年4月19日

編集部のおすすめ