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日本のドローン産業、どこまで進んでいる?大規模調査で明らかに

おすすめ本の抜粋「日本ドローン年鑑2021」

日本のドローン産業は黎明期から安定成長期に入ろうとしている。2010年頃から2015年頃まではホビー用ドローンが爆発的に普及した時代であった。そして、2016年は産業用ドローン元年とも言われて成長期に入り、2021年には農業・測量・点検分野で安定成長期の段階に至っている。2022年の第三者上空飛行の解禁によりドローン物流元年を迎え、都市部でのドローン物流も開始される環境が整備されることになる。このように産業用ドローンも分野によって社会実装の難易度が異なるため、社会実装には一定の時間差がある。もっとも難易度の高いパッセンジャードローン分野、いわゆる空飛ぶクルマは2020年代後半頃に社会実装が開始されると推定される。

こうした産業用ドローン分野は、大企業から中小企業、零細企業や個人事業主までさまざまな規模があり、法人も株式会社から社団法人等の多様な形態があるため、これらを一律にカウントして集計することの意味は議論があるところである。ただ、しっかりと我が国のドローン産業に貢献している思われるところは本書で取り上げて、分類整理することに努めた。その法人数は総数900件を超える数となっている。もちろん、この数ですべてをカバーしているわけではないし、所詮無理なことでもある。日々ドローン関連の新法人が設立されたり、既存企業内に「ドローン事業部」的な部署が出来るという状況で増加の一途を辿っている。恐らく本書で取り上げた法人数の数倍程度はあると想定されるが、ホームページ等を検索してどの程度ドローン産業に力を入れているかを主観的判断で裁定させていただいた。

ドローン産業は大枠として以下の事業に分けられる。先端ロボティクス財団では下記のカテゴリーで主要な企業からアンケート調査を行い、どの業種(複数選択可)を行っているかについて実態調査を行った。


1.ドローン機体(プラットフォーム)の開発・製造
2.無人ボート、水中ドローン、または、無人配送ロボットの開発・製造
3.関連機器(プロポ、カメラ、ジンバル、測量機器、観測装置など)の開発・製造
4.ドローン関連のシステム、ソフトウェア開発
5.ドローン部品の開発・製造
6.ドローンを活用したソリューションの提供(物流、空撮、点検、測量、警備など)
7.ドローンの運用・導入支援、コンサルティング
8.ドローン機体・関連機器・ソフトウェアの販売
9.ドローン機体の修理・メンテナンス
10.パイロット養成スクール運営
11.その他

こうしたアンケート調査や先端ロボティクス財団の独自のヒアリング、関連資料の調査等により、日本のドローン産業の現状が俯瞰的に明らかになってきた。ここでは、その一部を紹介したい。

図1 本社所在地の都道府県別割合

まず、図1は我が国のドローン関連企業の本社の所在地を都道府県ごとに集計して示している。これから東京都に本社のある企業が40%を超えており、東京一極集中の状況である。次に大阪府、愛知県の大都市圏が続き、首都圏の神奈川県、千葉県や福島ロボットテストフィールドのある福島県、広大な飛行エリアを有する北海道の順になっている。埼玉県以降は京都府、広島県、茨城県、福岡県、新潟県、静岡県、兵庫県と続くが、ほぼ僅差で順位をつけることに意味はない。

株式会社オプティムのオリジナル固定翼機を用いた広域空撮。同社は東京都に本社を置くが、佐賀県が本店となっており、開発拠点を設置している。こうした企業も少なくない。

次に、約900法人を大分類として、1.機体提供(ハードウェア、ソフトウェアを含む)、2.サービス提供(機体を用いたソリューション提供、機体の輸入販売を含む)、3.その他周辺(バッテリ、モータ、プロペラ、応用ソフト等の提供を含む)、4.その他(部品輸入販売、研究機関、投資ファンド等)に大分類すると、図2、図3 となる。

図2 約900 法人を大分類
図3 ドローンの機体、周辺機器、部品に関する事業数のバランス

これより73%はサービス産業が占めており、機体を用いたソリューションの提供である。今後大きく成長することが期待される分野である。一方、ハードウェア、ソフトウェアを含む機体プラットフォームの提供は8%、ドローン周辺関連産業である部品提供やドローン搭載機器、応用ソフトウェア関連提供分野は9%となっており、合計すれば27%でサービス系の約3分の1である。世界の動向と比較するため、Drone Industry Insight 社のデータを見ると、サービスとサービス以外で売上額ベースで2020年は153億米ドルと45億米ドルでサービス系がそれ以外の約3倍強となっており、世界とも類似していることが分かる。

一方、シェア率27%のハードウェア、ソフトウェアを含む機体プラットフォームと周辺機器関連の詳細を見ると図3となる(なお、図3以降のデータは900法人全体にアンケート調査を行って得た結果ではなく、各種団体および研究機関を除いた800法人のうち約1割程度を抽出してアンケート調査を実施し、複数回答可として得た結果であり、客観性は保証していない。しかし、傾向は類似であると想定できる。特に機体メーカーと思われる企業は概ね抽出している)。機体の開発・製造は約30社程度であり、無人ボートや水中ドローン、UGVなどは8社であった。ドローン搭載用機器関連が14社、ドローン部品関連が12社である。もっとも多いのはドローンのソフトウェアに関わっている企業で40社であった。ドローン産業はハードウェア自体はすでにコモデティ化しており、ドローンの価値を一層高めるためには各応用分野固有の特徴に適応したソフトウェアによる差別化が重要である。図4はサービス提供の中身で、機体を用いたソリューション提供が大きなシェアを占め、次にドローン運用・導入支援、コンサルティング、機器やソフトウエアの販売、機体の修理やメンテナンス、パイロット養成スクールとなっている。(野波健蔵)

図4 サービス(販売も含む)提供、ソフトウェア開発に関する事業数のバランス
株式会社WorldLink&Company による機体運用風景。同社では、ドローンの機体・関連機器・ソフトウェアの販売、メンテナンス、運用、導入支援、ドローンを活用したソリューション提供、人材育成などを幅広く手掛けている。
文献

(1)野波健蔵編著『続・ドローン産業応用のすべて』(オーム社、2020年)

(「日本ドローン年鑑2021」より一部抜粋)

書籍紹介

日本の産業用ドローンは、農業や測量分野、施設・設備点検などのインフラ維持管理分野での利用が進んでいる。そこで本書では、日本の産業用ドローンの機体、関連企業などを網羅し、データベース的に紹介する。日本のドローン産業普及発展に役立つ内容となっている。


書名:日本ドローン年鑑2021
編著者名:野波健蔵 (監修)、一般財団法人 先端ロボティクス財団 (編著)
判型:A5判
総頁数:230頁
税込み価格:5,500円

執筆者


野波健蔵
1949年福井県生まれ。
1979年東京都立大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程修了、工学博士。
2019年一般財団法人先端ロボティクス財団を設立し理事長を務める。

一般財団法人先端ロボティクス財団

先端ロボティクス分野における若手人材育成と先端ロボット産業振興を俯瞰しているが、当面は、若手ドローン人材育成とドローン産業振興を目指して2019年6月に設立。活動は、1.先端ロボティクスチャレンジ(コロナ禍で延期)、2.人材育成としての先端ロボティクス研究会、3.千葉大学インテリジェント飛行センターへの寄付、4.東京湾縦断飛行実証実験、5.100kmクラスの長距離飛行用新型機体の開発、6.『日本ドローン年鑑』の出版、7.内外のドローン産業や研究開発のデータベース作成と検索システム構築など。

販売サイト

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目次(一部抜粋)


第1部 産業編 ドローン産業の最前線をカテゴリーごとに紹介
第2部 機体編 産業用ドローン・メーカー18社の機体を紹介
第3部 企業編 日本のドローン産業を担う126社を紹介
巻末  ドローン関連法人リスト

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