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「民泊」リスクとチャンスの“収支”を探る

政府が有識者会議を発足。先行市場の事例から見えてくること
「民泊」リスクとチャンスの“収支”を探る

「Airbnb」ウェブサイトより


「質の高さ」で競合と差別化


 Pillowが掲げる基本的なサービス内容は「Guesty」と重なっている。ホストに代わっていつでも24時間ゲストに対応できること、ゲストが問題ない人物であるかどうかのスクリーニング、清掃の手配、鍵の受け渡し、メンテナンス、市場価格の分析などだ。

 それではGuestyとPillowのちがいはどこにあるのだろうか。Airbnb利用時のホスト業務を代行する各種プロパティサイトを比較した「Renting Your Place」の記事では、Guestyの強みとして「応答の迅速さ」を挙げている。同サイトはゲストから宿泊の希望や問い合わせが入った時に、できるだけはやく回答することが「物件が借りられる要件」と考え、スピーディーな返信に重きを置いているのだ。

 一方Pillowの強みとして取り上げられているのはクリーニングやサプライの質の高さだった。同サイトはゲストにできるだけ快適な宿泊体験を提供することに力を入れ、ホテルのようなサービスを提供することを目指している。当初の「Airenvy」というサイト名を枕を意味する「Pillow」に変更したのも、同社がホスピタリティに力を入れていることを示すためなのだそうだ。

 そのために専門のクリーニングスタッフが新しいゲストが到着するまえにタオル類を取り替え、新しい紙タオルやシャンプーなどのストックを補充し、滞在中もゲストのニーズに合った世話を行う。なおクリーニングスタッフの質に満足できない場合はホストよりフィードバックを行うことも可能だ。

 Pillowではクリーニング以外の業務も質の高いサービスを提供するため、それぞれ専門のスタッフが対応する分業制を敷いている。たとえば予約や対応業務は「予約チーム」が対応し、緊急時にかけつけるメンテナンスも専門のスタッフを用意している。

 接客面での「おもてなし」の工夫としてはホスト・ゲストとの連絡網としてSMSを活用していることが挙げられる。短期レンタルにおけるトラブルの原因の多くがコミュニケーションの欠如と考え、ゲストのみならずホストとも行き違いがないようにしているのだ。

 「テキストメッセージは、非常に効果的な手段なんです。必要なタスクのリマインドも行えるし、緊急のメッセージをゲストやホストに届けることもできます。またゲストが到着したときに、対応するチームに連絡するのにも使用しています。ただ時間通りにタスクが進行できるだけでなく、自動化されたプロセスに個人的なつながりをつくっているのです」(Mariusz Lapinski氏=Pillowの共同創設者でディベロッパー)

 こうした試みから見ても、Pillowはさまざまなプロパティサイトが台頭する中にあって、ゲスト・ホストが快適にサービスを利用できる点に活路を見出しているようだ。

ホストの収益を最大化する2種類の料金プラン


 同サイトは立地条件やベッドルーム数、価格変動、近所の家の価格設定など85の要件をもとに、料金設定を計算している。Pillowの標準プランでの手数料は15%と、Guestyの3%と比べて割高だが、1日単位で最適な料金設定を行うことで、ホストの収入を最大化することができると自信を持っているという。

 また、業界初の定額収入プランも取り扱っている。これはあらかじめ定められた額の収入を毎月ホストに渡すというもので、標準プランほど大きなリターンは期待できないが、利用数に左右されない安定した賃貸収入を毎月得られるのが魅力だ。ゲストからの利用が少ないとホストに手渡す料金が売上を下回る事態も考えられるが、その場合はPillowが負担するため後になって収入が減る心配もない。

 専門スタッフが業務代行することでサービスの質が一定していれば、アルゴリズムの精度が高い状態であれば、その家がどれだけの利益を出すかの計算もしやすくなる。そうなればホストはより確実な収入を見込めるというわけだ。

 プロパティ・マネジメント・サービスはいかにホストに利益を提供できるかでしのぎを削っている。その結果、ゲストはより高い質のサービスを受けられるようになり、ホストは時間や手間を掛けることなく、より多くの利益を見込めるようになった。

 ルームシェアリングというビジネス全体で俯瞰してみると、このような周辺業者の出現によって「ビジネスのエコシステム(生態系)」を形成しつつある。これはビジネスモデルが定着し始めてきているサインだ。

 Airbnbが生まれた時、僕はこのサービスの先行きも、そもそもサービス名称も全く読めなかったが、、そろそろ僕だけじゃなく、日本人全体でこのビジネスモデルについて少し考えるべきときがきている気がしている。
日刊工業新聞2015年11月19日4面
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
民泊をめぐっては治安や近隣住民との問題などさまざまな課題が報じられています。需要があるサービス形態だけにどんな対策を講じるのか今後の議論が注目されます。

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