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世界初の新規上場を果たしたドローン専業メーカー、トップが見据える未来とは?

鷲谷聡之社長インタビュー

産業用ドローンの開発を手がける、自律制御システム研究所(ACSL)。ドローン専業メーカーとして、世界初の新規上場を果たした代表取締役社長兼COO・鷲谷聡之さんに、ドローンの未来展望を伺った。

空を飛ぶだけではない、ドローンのポテンシャル

—まず、現在のドローンの性能面を教えてださい。

「速度でいえば、時速70〜100kmぐらい、さすがに台風は無理ですが、雨が降っても風が吹いても、ある程度は問題なく飛ばせます。電波を使って繋ぐことができるようになったので、例えば、長崎県五島列島を飛ぶドローンを、羽田空港でコントロールできるようになりました。事前に指定された場所であれば、もちろん自律飛行が可能です」

—近い将来、ドローンはこんなこともできるという可能性についてはいかがでしょうか。

「ドローンとは“空を飛ぶもの”という認識が大きいと思いますが、空だけではなく、物流倉庫やトンネル内などの屋内も飛ぶことが可能です。つまり“羽が生えたロボティクス”というのが、より正しい認識だと考えています。いま我々が取り組んでいる注目のドローンは、下水管の中を飛ぶというもの。人が簡単に入り込めない下水管の中で、汚物などの障害物を乗り越えながら飛んでいくドローンに、大きな期待を寄せています」

―下水管の中を飛ぶというのは面白いですね。では、物流面では今後どのような用途が期待できますか?

「昨年はコロナ禍によって『遠隔診療』が注目を集めました。診療は遠隔でできますが、処方薬に関して対面手渡しのルールがあるので、わざわざ薬局に行かないといけません。今後は規制緩和がされる見込みもあり、医薬品のドローン輸送が社会実装される可能性は非常に大きいと思います」

—もともとホビー用途だったものが、様々な目的で使われるようになってきましたね。

「現在、特に産業用途を担っていて、活躍の場は主に社会インフラ。みなさんが思っている以上に、既にいろんな場所で活躍しているのです。いまは、日常ではなかなか見かけませんが、近い将来には、皆さんが高速道路を走っていて、さりげなく見上げた際に、ドローンが橋梁を点検しているという光景が見られると思います」

ドローンの自動運転が、車の自動運転より早く実現する理由

—車の自動運転より、ドローンの自動運転のほうが、社会実装される時期が早いのでは?といった声が聞かれます。

「その通りだと思います。地上2mまでは、人や動物などどんなものが飛び出してくるかわかりません。つまり、自動車が走行するシーンでは、不確定要素が多いのです。これを予想するには、AIに相当のディープラーニングをさせないといけません。しかしドローンが安全に飛ぶ高度となると、不確定要素がグンと減ります。ですから、車よりもドローンの自動運転のほうが、社会実装は圧倒的に早く来るはずです」

—その一方で、ドローンの課題やイノベーションを起こすべき点を教えてください。

「大まかに言って3つあります。まずは『燃費』。現状のドローンは飛行時間が短く、車に例えると燃費が悪いという状態です。今後もっと燃費改善をしていくべきです。2つ目は『より高度な自律性』です。もちろん自律飛行はできますが、現段階では人間の指令通りに飛ぶだけなので、能動的な自律飛行がまだできません。もし飛行中に緊急のヘリコプターが横切ったとしても、ちゃんと止まって避けられるようにするなど、ドローン自身が判断できるようになることが求められてきます。3つ目は災害、物流、点検など『技術を用途により最適化』することです。単に飛行するだけではなく、専門性を持ったドローンがより必要になるでしょう」


より“安全・安心”なドローンを製造するために必要なこと

—ドローンには、“安全・安心”が求められています。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトで安全・安心なドローン基盤技術開発を行なっていますが、データのセキュリティや安全飛行の面で、どういった取り組みが行われていますか?

「特に重要視されているのがサイバーセキュリティ技術で、ハッキングを想定し、データや通信が守られていることが重要になります。第三者のアクセスがあったとしても、ちゃんとガードされているかを入念に分析・解析したうえで、安心できるレベルの技術を実装しています。また、信頼がおける国産の部品や製品を使って中長期的な調達保証やアフターサポートなど、トータルな安全・安心を確保しています。それによって、国内の産業育成がちゃんと行われるようにもしていきたいですね。また、使用用途などにより濃淡はありますが、そのうちUI(ユーザーインターフェース)、UX(ユーザーエクスペリエンス)などデザイン面による安心感も必要になってくるでしょう」

—“デザイン面での安心感”とは、具体的にどういうことでしょうか?

「例えばヘリコプターの場合、プロペラが轟音(ごうおん)で回って飛んでいると怖い印象を受けますよね?いつかあれが落ちてくるのではないかという恐怖感を抱きがちです。しかし、同じ空を飛ぶものでも、スマートな形と色のデザインの飛行機は怖さを感じさせません。もちろん要素はデザインだけではないのですが、形や色を工夫することで、社会受容性が得られるようになります。わかりやすい例でいうと、ダイソン社の扇風機は見える部分に羽が無いことから、他の製品と比べて安全・安心な印象を与えます。そういう視点はドローンにも必要で、技術の進化は同様の展開を迎えるはずです」

—ドローンを導入予定の自治体と企業に対して、どんなふうに期待していますか?

「東京で成立している物流は、人口が少ない地方都市の物流方法とは違います。その現状をきちんと把握しているのは、他ならぬ自治体の方々です。ドローンを購入するならば、ただ単に機体に予算を投下するのではなく、この企業を巻き込んだ方がいい、この人をキーパーソンにした事業を考えたほうがいいなど、将来的なマスタープランを描くことが大事です。また、ドローンは歴史が浅いこともあり、まだまだ危険なものだとの見られ方をすることがあります。数年前に導入を検討しながらも、そこで足踏みをしてしまった企業や自治体が多いのではないでしょうか。ドローンの進化は、何度も申し上げたように日進月歩で、目を見張るものがあります。そして、確実に社会実装が進んで安全・安心なものに近づいています。いま一度実装を検討していただくと嬉しいですね」

—2022年の航空法改正に向けて規制が強化されると、ドローンの普及に歯止めがかかる、という見解が一部にはあるようです。

「私としては、“規制が強化される”という見解は正しくないと思っています。あくまで有人地帯で飛ばすことに関する規制が中心です。ですから、改正航空法は、ドローンの普及の障害になるものではありません。むしろより一層の安全・安心が担保されることで、ドローンの利活用が広がることを期待したいですね」

—最後に。鷲谷さんは、今後、どんな世界をドローンで実現したいと思っていますか?

「我が社のミッションは『技術を通じて、人々をもっと大切なことへ』。そのうちドローンが“キツイ、汚い、危険”のいわゆる3K作業から、人間を解放してくれるでしょう。それによって生まれた時間を趣味に使ってもいいし、あるいは別の形でもっと働いてもいい。そんな“自由”と“幸福”をもたらす社会を目指したいのです」

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