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ベンチャーで1年武者修行、パナソニックの“放牧”制度が生み出す相乗効果

大企業を飛び出して1年間の武者修行―。パナソニックは、2018年に「社外留職制度」を導入した。これは同社に籍を置いたまま、毎年数名が約1年間、ベンチャー(VB)企業などで働く制度だ。会社規模や組織形態、仕事内容も異なる企業でこれまでと違う経験を積み、パナソニックに戻った時に自身の成長への糧とする。同社の若手・中堅社員にとって貴重な経験の場になっている。(大阪編集委員・林武志)

社外留職の運用では企業間レンタル移籍事業を展開するローンディール(東京都港区)のプラットフォームを活用。募集は若干名で候補者を決めた後、派遣先企業とのマッチングを実施する。パナソニックは「何のために出て、戻ってからは何を成し遂げたいのか」を事前に綿密に確認する。対象は入社4年目以上の社員。派遣先はVBが多いがNPO法人などもあるという。

15年入社の松尾朋子さん(28)。入社後、ライフソリューションズ(LS)社の千葉電材営業所(千葉市美浜区)で電設資材などの営業に取り組んできた。その後、社外留職制度の“第1期生”として18年10月、建築事業の業務支援に携わるIT系VB、ローカルワークス(LW、東京都品川区)に出向した。

松尾さんは移籍先のLWでも営業職が主戦場になった。パナソニックではルート営業が多かったが、LWでは新規開拓が中心。「電話をかけまくり、飛び込みをよくやった」という新規サービスの営業では壁にぶつかる。そこで建設関連の組合に共同開催のイベントなど顧客との接点を考案し、打開した。

「視野が狭くなりがちなところでやり方を日々アップデートする必要性を実感した」と顧みる。少人数での奮闘経験は、「仕事ができる人は成果を上げるだけでなく、それが誰でもできるように平準化すること」と胸に刻まれた。LWの清水勇介社長は「最初は大企業との環境の違いに戸惑いがあったようだ。ただ慣れると持ち前のキャラクターで業績だけでなく社内の雰囲気づくりにも好影響を与え、活躍は頼もしかった」と松尾さんを評す。

松尾さんは社外留職について、「おすすめの制度。もし(今の会社を)辞めると次の会社で気付きがあり、『もっとやれたかも』と思うかも知れない。しかし、社外留職ならいずれ復帰するので、自分の甘さにも気付き、戻ったらこうしたいと思える」と後輩に伝える。パナソニックに戻り「信頼、知名度など全部持っている」と巨大な“看板”の力を再確認した。

厚生労働省が20年10月まとめた新規学卒就職者の離職状況(17年3月卒業者の状況)によると、大卒者の就職後3年以内の離職率は前年比0・8ポイント増の32・8%。大卒者の約3分の1は就職後3年以内に離職する傾向だ。企業の規模を問わず、若手社員には“入社3年の壁”が存在する。

「濃い1年」を経てパナソニック復帰後、仕事への意欲がさらに増した松尾さん。所属先のバックアップによる“放牧”は、社員、会社の双方にとって良いベクトルを向く相乗効果を生み出している。

日刊工業新聞2021年5月5日

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