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お金だけじゃない!介護離職に潜む怖ーいリスク

離職防ぐ両立支援策を

自社の従業員で、家族の介護を担っている従業員、家族の介護を担う可能性のある従業員がどのくらいいるかご存じだろうか。また、会社としての支援体制は十分だろうか。

国内の要支援・要介護認定者数や認知症高齢者数は年々増加しており、年間約10万人が介護や看護を理由に離職や転職を余儀なくされている。

公的介護保険において要支援・要介護として認定されている75歳以上の割合は約30%に上るため、従業員の義理の両親まで含めた4人全員が75歳以上だとすると、そのうち1人は介護が必要となる計算だ。

団塊の世代が70代を迎えている中、企業の中核を担う30代後半から50代前半の従業員が今後介護に直面する可能性も高い。頼りにしている従業員や活躍が期待されている従業員も、介護離職を余儀なくされる可能性がある。

当社で実施した「介護費用に関するアンケート」によると、介護費用の平均金額は、初期費用で98万1000円、月々の費用で12万7000円であり、月々の費用は介護期間が長期化するほど負担が重くなる。

介護離職の理由として、「自分以外に介護する人がいなかった」「仕事と介護の両立に体力的・精神的限界を感じた」などが挙げられ、介護サービスを十分に利用しないまま1人で抱え込んで離職するケースもある。本当は仕事を続けたいのに離職せざるを得ないというのは、従業員にとっても企業にとっても大きな損失である。介護離職による経営課題としては、管理職や優秀な人材の離職による戦力ダウン、新たな従業員の採用・育成コストや残った従業員の業務負荷の増加などが挙げられる。

仕事と介護の両立のためには、介護のためのお金・仕事をするための時間・介護に関する情報の確保により、介護への経済的・身体的・心理的な負担の軽減が重要となる。介護離職の対策には、国の介護保険制度に加えて企業側でも制度の整備が必要と考えられるが、自社のみで制度を立ち上げるには相応の労力が必要だ。

そこで介護離職に関するリスク軽減のため、新たなセーフティーネット(安全対策)として、民間の保険を活用するという選択肢がある。

保険商品によっては、例えば加入時に選択した300万―1000万円の4段階の補償限度額の範囲内で、従業員が親の介護に伴い負担した費用が実費で補償される。介護保険の上限を超える自己負担分などを補填する仕組みだ。

介護の負担軽減に役立つサービスの紹介や介護離職の防止に関するセミナーの開催なども付帯サービスに含まれており、経済的な支援のみならず身体的、心理的な支援も可能だ。

事前に介護離職の対策を打つことにより、従業員も自ら介護するために離職する必要がなくなり、企業も貴重な人材を失うリスクを低減できる。社外のサービスの活用なども視野に入れつつ、十分に備えていきたい。(隔週木曜日に掲載)

◇損害保険ジャパン リテール商品業務部傷害医療長期保険グループ 菱沼希美

日刊工業新聞2021年4月12日

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