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コロナ禍で文化は芸術は不要不急か?世代を繋ぐ「科学館」が今必要なワケ

コングレ社長・武内紀子
コロナ禍で文化は芸術は不要不急か?世代を繋ぐ「科学館」が今必要なワケ

はまぎんこども宇宙科学館のプラネタリウム(公式サイトより)

文化や芸術は不要不急なのか。コングレはコンサートホールを有する国際会議場をはじめ、美術館、科学館、水族館、展望台など、直営と受託を合わせて全国で約90の施設を管理運営している。2020年4月の緊急事態宣言以降、不要不急が問われる中、文化や芸術、観光分野の施設は難しいかじ取りを迫られるようになった。3密を回避する工夫をしながら、施設の存在意義をどう示し、役割を果たしていくのか。今回は科学館の取り組みを紹介したい。

社会教育に民間の知見

科学館は自然科学に関連する展示を行う博物館で、主に地方自治体が設置する社会教育施設である。地域の小学生が自由研究や学習のために利用することが多い。

当社は新潟県、山梨県、千葉市、横浜市、神戸市の五つの科学館を指定管理者として運営している。科学館は1980年代に建てられたものが多く、展示の老朽化も進んでいる。その中で、03年に指定管理者制度が始まった。住民の福祉を増進する目的で設置された公の施設について、民間事業者のノウハウを活用し、その設置目的を達成するためである。

当社が運営する科学館では、時代の要請に応えるべく、プログラミング教育のワークショップや環境問題の実験、話題の「はやぶさ2」の企画展、ミュージアムグッズの開発などを行っている。また、プラネタリウムをはじめ、大人も楽しめる場所となるよう企画に頭をひねる毎日だ。地域の高齢者には職歴を生かし、科学実験の先生などボランティアを務めてくださる方も多い。これら地域に根差したコンテンツを武器に「地域の科学館」として、コミュニティーが広がっている。

その中で起きたコロナ禍。全国の小中学校が休校となり、科学館も休業。子どもの姿が消え、地域で集う場所として存在していた科学館は、そのあり方や活動の見直しを余儀なくされた。

最新技術で新企画続々

しかし、こうした状況だからこそ、何かやらなければと考えるようにもなった。横浜市のはまぎんこども宇宙科学館では「医療従事者のお役に立ちたい」というボランティアの方々の発案で、科学実験用の3Dプリンターを使ってフェイスシールドを作った。地域の医療機関と福祉施設に寄付し、喜んでいただけた。神戸市のバンドー神戸青少年科学館では、非接触での企画を考え、拡張現実(AR)を使ったスタンプラリーや、入院中の子どもたちがアバターロボットで館内ツアーを体験する試みを実施した。

イベントのオンライン化も進めている。横浜市の科学館では、館長と将棋の羽生善治さんら各界のプロが、親子を対象に子どもの夢を育むオンライン対談番組を行っている。館で自ら企画制作、収録、配信を手がけ、視聴者数やチャットなどでの反応を見ながら事業を進めている。これらの取り組みは、科学館が地域の枠を超えて情報発信していくきっかけになった。

幅広い世代結び活力に

学校教育の支援の場としての役割も大きくなった。コロナ禍で授業を進めることが難しい一方、学習指導要領の改訂などで教師への要求は増している。科学館では、先生方を対象に授業でのプログラミング活用方法の提案やIT機器操作研修を実施している。

コロナ禍で、医学はもちろん科学の重要性を感じ、持続可能な開発目標(SDGs)など社会課題解決への意識が高まっている。科学というコンテンツを軸に地域社会、企業、幅広い世代を結び付け、新たな力を生み出すこと。そして、子どもの未来を育むこと。当社がまちづくりを念頭に、指定管理者として科学館の運営を行うのは、その力になりたいからだ。

市民の寄付やクラウドファンディングへの参加、企業の協賛や活動への参画など、行政の資金だけではなく、幅広い参加型の企画を進めなければと奮闘している。

そして、科学館によって「サイエンスコミュニケーション」を活性化させ、日本が誇る科学の力を次の世代に引き継いでいきたい。

【略歴】たけうち・のりこ 86年(昭61)阪大人間科学部卒。90年コングレ設立に参画。01年取締役営業企画部長。常務取締役、代表取締役専務を経て13年から現職。日本コンベンション協会副代表理事、経団連審議員会副議長・観光委員長、大阪府出身、57歳。
日刊工業新聞2020年2月22日

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