ソニーの立体音響、パーソナライズ化で人の耳に入り込む
ソニーは、2019年に欧米から始めた「360(サンロクマル)リアリティオーディオ」事業を国内でも4月から本格展開する。歌手や演奏者と同じ空間にいるような臨場感を楽しめるシステムの普及に向けて、邦楽アーティストの楽曲の拡充や再生機器の投入が始まる。さらに、360リアリティオーディオの実力をより体感できる仕掛けとして提供するのが、利用者の耳の形とヘッドホンに合わせて音場をパーソナライズ(個別化)するサービスだ。
360リアリティオーディオは、ボーカルや楽器の音源ごとに位置情報を付けて球状の空間に配置する技術を活用した音楽体験。視聴者はスピーカーやヘッドホンを通して、音に包まれるような鑑賞体験ができる。
新型コロナウイルス感染拡大で音楽ライブの代替策としての映像配信が増える中、遠隔では難しい臨場感の演出で活躍が期待されている。ソニーは、まず市場が伸びている音楽ストリーミング(逐次再生)を中心にサービスを展開し、対応コンテンツや再生機器の拡充を進める方針だ。
音場の最適化は、スマートフォンや携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」でストリーミングサービスを利用する際、360リアリティオーディオ対応のヘッドホンも使う場合に利用できる。専用アプリケーション(応用ソフト)で使用するヘッドホンの登録と左右の耳を撮影すると、楽曲再生時に適用するパラメーターがクラウド経由で作成される。
同社の調査によると高音域ほど人によって聞こえ方に差が現れる。大きさや形といった耳の特徴から解析した聴感特性と、機器の組み合わせに応じて作られたパラメーターは、360リアリティオーディオの臨場感を損なわないよう補正する役目を果たす。今後利用者が増えていくと、さらなる精度向上も期待できるという。
360リアリティオーディオの普及に向けて対応機器の拡充は不可欠だ。新製品の投入や技術ライセンスの提供など製品群の拡充に向けた取り組みを進めているが、発売済みの機器もエコシステム(生態系)に組み込むことで、より多くの人に対して技術に触れるきっかけを提供できるようになる。
ソニーは立体音響技術を音楽配信以外でも活用する方針。すでにオーディオブックや娯楽施設のアトラクションなどで活用し、開発中の電気自動車(EV)「VISON―S」にも搭載している。ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツV&S事業本部事業開発部の岡崎真治統括部長は「人の座る位置が決まっているモビリティーは音場の最適化にベストな環境だ」と語る。テレビや映画などへの応用も見込める注目のサービスだ。
(取材・国広伽奈子)