再生エネの固定価格買取終了!太陽光発電の生き残る道は?
「分散型」プロ
“小田原のディズニーランド”と異名をとる、小田原こどもの森公園わんぱくらんど(神奈川県小田原市)。週末に大勢の家族連れでにぎわう12万5000平方メートルの広大な敷地の隅に、太陽光発電(PV)パネルや受変電設備がひっそりと置かれている。8月にはPVパネルの隣に大型蓄電池が設置され、地域マイクログリッド構築の実証実験が始まる。災害避難場所を想定し、停電時にも公園内で3日間の電力供給を可能にするプロジェクトだ。
実証を手がけるのは、京セラや湘南電力(神奈川県小田原市)など4社と小田原市。市内の一般家庭に設置されたPVの余剰電力を大型蓄電池などに供給し、エネルギー地産地消を目指す。湘南電力が屋根などにPVパネルを載せた家屋など150軒と契約し、余剰電力を集める。
PV離れ防ぐ
再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の終了が決まり、買い取り価格が低下している。売電が難しくなり、別の付加価値がなければPVパネル離れを招く。地域の分散型エネルギー源としてPVを活用する地域マイクログリッドの実現が危ぶまれる。
このため、実証の中では、再生エネ電力を使って演算力サーバーでレンダリング(データを基にした画像生成)などを行い、価値を創出する。これを実証参加者に還元する仕組みを構想している。実証をとりまとめる京セラの草野吉雅経営推進本部エネルギー事業開発部責任者は、「PVパネルで楽しい思いを経験できるような仕組みが必要」と、実証のポイントを説明する。
再生エネは転機を迎えている。国民の負担で支えてきたFITに代わり、再生エネ市場価格に一定のプレミアムを乗せる制度(FIP)に22年から移行する。FIPでは自ら市場で売らなければならない。発電量も正確に予測する必要がある。そこで、こうした個々の再生エネ電源を束ね、卸市場や相対での取引を代行する「アグリゲーター」の役割が求められてくる。
取引代行業
東芝は22年にアグリゲーターの資格を取得し、事業に乗り出す。東芝エネルギーシステムズの新貝英己グリッド・アグリゲーション事業部マーケティングエグゼクティブは、「ノンFIT電源で10%以上、数百万キロワットを束ね、日本一の事業者になる」と宣言する。
布石は打った。ドイツのネクストクラフトベルケと提携し、20年11月に合弁会社を設立した。ネクストクラフトベルケは欧州で分散電源1万カ所以上をIoT(モノのインターネット)でつなぎ、約800万キロワットを束ねる事業者だ。ドイツは12年にFITからFIPに移行し、同社は10年以上の事業の蓄積がある。市場取引の経験や1万の電源を運用するノウハウを取り込む。東芝は強みとする電力需要予測やPV発電量予測の技術を生かし、日本市場に対応する。
東芝が目指す姿は、「環境価値を求める需要家に、再生エネを安定・安価に供給するプラットフォーム(基盤)を提供する」(新貝エグゼクティブ)。既存の電力会社との境界線は薄れ、協業あるいは競合する場面も出てくるだろう。電力業界は新たなステージに突入する。