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「プチ修行」「写仏」で作業効率がアップ、“天空の寺院”でワーケーションのススメ

連載・島根でワーケーションをしてみた #04
「プチ修行」「写仏」で作業効率がアップ、“天空の寺院”でワーケーションのススメ

阿字観体験

プチ修行で心身がスッキリ。作業効率がアップする

コロナ禍で加速した「ワーケーション」。非日常空間に身を置き、心が揺さぶられるような絶景を見たり、普段出会わないような人と出会ってコミュニケーションをとったり。それがいい刺激になり、作業効率や仕事の生産性が上がる可能性が高い。

ただし、リゾート地の青すぎる海や観光地のアクティビティの誘惑に勝てず、ついつい遊び過ぎてしまうこともある。普段よりも仕事と遊びの“切り分け”を強く意識したい。半面、周りに何もない、誘惑がない場所は仕事に集中できてよいが、お金と時間を費やしてまでそこに行く意味があるのか? という問題も浮上する。

仕事に没頭しつつも、非日常的なアクティビティを楽しめる場所ならば、ワークとバケーションのバランスがいい。島根県大田市の“天空の寺院”高野山真言宗・清水大師寺は、その良いバランスを備えたスポットだ。

812年に弘法大師空海がここで観世音菩薩を勧請したのが、寺の始まりとされる。世界遺産・石見銀山で産出された銀を、かつて北前船で送りだした日本海の温泉津(ゆのつ)港を一望できる絶景に感動! 山の上にそびえたつ天空の寺院というのがポイントで、どこの観光地に行くにもそれなりに時間がかかり、遊びの誘惑が少なめ。しかも1日1組限定の宿坊は、かゆいところまで手が届く、細やかな心配りで運営されているので、快適に過ごすことができる。

清水大師寺から望む温泉津港

宿坊で仕事に集中した後は、“プチ修行体験”にトライしよう。まずは「阿字観」と呼ばれる修行に初挑戦してみた。空海が伝えたとされる密教の瞑想法だが、通常の瞑想と違うのは、最初から最後まで住職の声を聞きながら進めていくこと。呼吸法から発声法、脳内のイメージづくりまで、すべてを誘導に従って瞑想状態に近づけていく。

暗闇の中、ロウソクの光を頼りに見えるのは、梵字の「阿」。目を開けて、閉じて、を繰り返し、「阿」の字を頭の中に焼き付ける。かすかに口を開けて「あー」と発声し、その声を自分の脳内に反芻させると、なんとなく宇宙と繋がる感覚になる。「座り方も自由、寝転んだ状態で行ってもOKです。途中寝てしまっても全然構いません。リラックスすることが一番の目的ですから」と語るのは住職の渡利勝信さん。真言密教の修行というとハードな体験を思い浮かべるが、こういう気楽さがいい。

頭も心も軽くなったところで、仕事にまた集中し、その後は「写仏」に挑戦する。仏様の姿をペンでなぞるのだが、色を塗り始めると、楽しくなって全て彩色してみた。塗り絵と同様、集中して彩色することで雑念が消え去り、頭がスッキリ。体が軽くなったような気がするので、その後の作業効率がアップする。 

写仏の完成品。色鮮やかに仕上がった

朝7時からのお勤めに参加しお経をあげて、住職の説法を聞くのもまた新鮮。朝は地元の旬の野菜を使ったヘルシーな精進料理をとる。とても清々しい気分になったワーケーション体験だ。

朝のお勤め

専用庭園の眺め、“安らぎの青”の内風呂入浴で気分転換を

島根に来たからには、出雲大社詣ではマストだ。参詣の後は、出雲市の「NIPPONIA出雲平田木綿街道」(NIPPONIA)に移動してワーケーションを。「木綿街道」の名の通り、その昔、街は特産の雲州木綿の売買でたいそう豊かな時代を送ったそうだ。宿の周囲には、レトロな雰囲気の醤油店、生姜糖店などが並び、往時の面影をしのぶことができる。

NIPPONIAは、築200年以上の「旧石橋酒造」の建物をリノベーションし、切妻妻入り塗屋造りを伝える洗練された空間が人気だ。石橋酒造は2007年に廃業したが、木綿街道周辺の街にとっての貴重な財産でもあり、宿として再生されたのだ。

造り酒屋らしく、「蔵元」「杜氏」「酛屋」(もとや・酒母を管理する職人)といった部屋の名前が面白い。蔵、客間、蔵人の台所などを改修した全6部屋の室内も見事。それぞれの部屋で趣が異なり、非常に洗練された空間だ。ホームシアターを備えた蔵付きの部屋、大きな暖炉、アンティーク家具が魅力的な部屋などでは、グループワーケーションも楽しめる。各々の客室専用の中庭があり、昼下がりでも、夜でも、朝でも美しい景色を独占。砂利の敷きつめや苔の生育は、宿のスタッフが行なったというエピソードにもほっこりする。

“安らぎの青”の異名を持つ十和田石を使用した内風呂もまた魅力的。ヒノキの香りがとても心地よく、十和田石の遠赤外線効果とマイナスイオン効果でリラックス度が高い。どこまでも優しい肌触りで、仕事に飽きたら、気分転換に何度も入浴して気分をリフレッシュ。反復入浴も一つのアクティビティになりそうだ。

また、朝食のバラエティの豊富さにも驚く。おかずは主に木綿街道の台所を担う「ごはん屋 棉の花」が作り、一つ一つ作り手の想いがこもったものに仕上がっている。優しい出汁の味をゆったりと味わい、スローな朝の時間を堪能したい。

NIPPONIAの中

派手な観光要素はないけれど、古き良き時代の重厚さを感じる街で、ワーケーションをするのもいいだろう。

(取材=ライター・東野りか)

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