人気の純国産プログラミング言語「Ruby」、発祥の地・松江で地域振興の手段になっている
島根県松江市と聞いて、思い浮かべるのは何だろうか?
松江城、宍道湖、松江堀川めぐり、玉造温泉など魅力は様々。人生で一度だけ訪れたことがある松江で、ワーケーション(ワーク:仕事+バケーション:休暇)をやろうと思い立つ。なぜなら、自宅からうんと離れた非日常空間に身をゆだねると、クリエイティビティを刺激されるのではないかと思ったからだ。
さて、一路松江へ。自宅がある神奈川県・横浜駅から「サンライズ出雲・瀬戸号」に乗車する。「サンライズ出雲・瀬戸号」は、国内で唯一残る定期寝台列車であり、夜10時台に出発し、朝9時過ぎに松江に到着する。
約13時間の長い電車旅ではあるが、ラウンジ車両で少し仕事をして一杯呑んだあとは、個室で寝るだけ。朝6時には起床。岡山で四国行き瀬戸号の車両切り離しを見学して、電車内のシャワーを浴びて朝ごはんを食べて……、となると意外と時間が経つのが早いもの。多忙なワーカーにとっては、夜から朝の時間の有効活用になる。
冒頭で松江の魅力を挙げたが、純国産プログラミング言語として人気の「Ruby」発祥の地であることは、意外と知られていない。Rubyの産みの親であるまつもとゆきひろ氏が在籍する「ネットワーク応用通信研究所」が松江市にあるため、同市はRubyを“推し”ている。それが「RubyCityMatsueプロジェクト」であり、松江はRubyを媒介として、人財・情報の交流拠点、ビジネスマッチングの拠点となっている。
さて、朝9時過ぎに松江駅に降りたった後は「松江オープンソースラボ」(OSS)へ。月に1回、技術者によるRubyの勉強会「Matsue. rb定例会」があると聞いたからだ。OSS内のコワーキングスペースで、朝から勉強会がスタート。途中仲間とランチをとったり、作業の途中で困ったことや疑問点がある場合は口頭でたずねたり、Slackというコミュニケーションツールで情報を共有したり。学生が参加して、IT企業に勤める社員と懇意になることもできる。
そもそも企業に勤める技術者たちは、会社でも横のつながりがない。それゆえ他の企業の人々と学びの場を共有したい、という声を受け、企業の枠を超えたコミュニティとして発足したのが誕生の経緯だ。
さらには、子供達にプログラミングを教える「NPO法人Rubyプログラミング少年団」もある。団体を発足した高尾宏治氏によると「公式サイトに“A Programmer’s Best Friend”とあるように、Rubyは他の言語に比べても、わかりやすく親しみやすい。2012年度から始まった中学生のプログラミング授業でもRubyを学んでほしいという思いがあり、教育用ビジュアルプログラミング言語のScratchを学んだ子どもたちが抵抗なくRubyに移行できるように、スモウルビーを開発しました。スモウルビーは命令を記述できるブロックを並べていくことで、プログラムが作成可能。マウスをクリックするだけでロボットを動かすことができるのです」と語る。
また、より多くの女性にプログラミング言語を体験してもらうために、Rails Girls Matsueというイベントを開催した松岡香里さんは、「子どもだけでなく、大人でも自分が作ったプログラムでモノを動かせた時の感動は大きいです。プログラミングに必要な論理的思考は、日々の生活のなかでとても役立つものです。技術者以外の方にもぜひ、Rubyでのプログラミング体験をしてほしいですね」と続ける。
ちなみに、他の地域に居住する技術者でも事前申し込みをすれば定例会に参加することもできる。また、「非エンジニアのプログラミング勉強会」も実験的に開催されているので、タイミングが合えば、ワーケーションがてら参加してみたいと思う。プログラミング“ど素人”の自分でも、モノを動かせる喜びをぜひ味わってみたい。
観光での地域活性は、日本各地で行われているが、プログラミング言語が地域振興の手段の一つになるのは興味深い。教育は未来を担う子どもたちへのギフトでもあり、投資でもあるのだからーー。
(取材=ライター・東野りか)