【革新!温暖化対策#01】"夢の技術"人工光合成の開発進む
2020年代に水とCO2で化学原料を製造
研究テーマ「三位一体」
プロジェクトの研究テーマは三つ。①太陽光の働きで水を分解して水素を生成する光触媒の開発、②水素を水中から取り出す分離膜の開発、③水素とCO2からオレフィンを製造する合成触媒の開発だ。NEDO環境部の山野慎司主任研究員は「3テーマは三位一体でどれも重要だが、出発点となる光触媒の開発は難易度が高い」と話す。
3月の発表は一つ目のテーマの成果。光触媒は光を吸収すると発生する酸化力で汚れや細菌を分解する洗浄作用が知られており、外壁材などに使われている。装置内では光触媒に接した水を水素と酸素に分解する。
実用化されている光触媒材料の酸化チタンは吸収できる波長が短く、紫外光でしか反応しないため太陽光エネルギーのわずか5%前後しか利用できていない。プロジェクトでは可視光を吸収し、太陽光の利用を増やす材料を探索している。
2%を達成した光触媒の材料は水素発生用が銅・インジウム・ガリウム・セレン、酸素発生用がバナジン酸ビスマス。有力な材料の目星がつき、14年度の目標としていた1%を上回る成果を上げた。だが「実用化を考えると安くて作りやすく、耐久性のある材料や形状である必要がある」(山野主任研究員)といい、材料探索と形状の研究を続ける。16年度には3%、21年度末には10%を目指す。
10%を達成した装置を2万平方メートルの敷地に並べると1時間で約45キログラム、1日で約230キログラムの水素を製造できる。水素ステーション貯蔵量の20-36%を賄える量で、燃料電池車にすると1日43台分に燃料を供給できる計算だ。商業施設の駐車場屋根で水素を作り、買い物客が駐車中に燃料を補給することも可能になる。
テーマの2つ目、水素を水中から取り出す分離膜の研究も進められている。分離膜は微細な穴のサイズによって水中で発生した水素と酸素を振り分ける。水素だけを通すように狙いを定めて穴のサイズを設計する。
テーマの三つ目は、炭素数が2-4のプラスチック原料となるオレフィンを選択的に作り出す合成触媒の開発が目標だ。人工光合成の商業プラントは、光触媒がセットされた太陽光パネルのような装置が地面にずらりと並ぶイメージだ。火力発電所やコンビナートの排ガスから回収したCO2をプラントに送り込み、オレフィンを製造する。
100万トンのオレフィンを人工光合成で製造すると310万トンのCO2削減効果があり、年14億トンを超える日本のCO2排出量の削減に貢献できる。光触媒はもともと日本が強い材料技術が生かされており、人工光合成の開発でも世界をリードする。「国内で技術を確立し、太陽光が豊富に降り注ぐ中東でもプラントを作りたい」(同)と話す。
パナソニックも人工光合成の研究に取り組む。同社の装置は太陽光、水、CO2からギ酸やメタンを生成できる。窒化ガリウム(GaN)とシリコンを組み合わせた電極によって利用できる光の波長を広げた。さらにGaNにインジウムを混ぜる改良によって化学品の原料となるギ酸生産の効率を1%に向上させた。同社は20年の実証開始を目指す。
東芝は水、CO2から一酸化炭素(CO)を生成する人工光合成を研究中だ。14年に効率1・5%を達成。植物の光合成で最も高効率とされる藻に匹敵する。
CO2の資源化の他の事例
CO2を野菜づくりや藻の培養に使う取り組みが佐賀市で始まっている。人工光合成ではないが、CO2を資源化する試みは同じだ。
市はゴミ焼却場で発生した排ガスからCO2を回収し、隣接する野菜工場に供給する実証を14年に開始。CO2濃度を高めて生育を促し、野菜の生産性を高める狙いだ。
3月には米ベンチャーなどが出資するアルビータ(佐賀市)が藻類の培養施設を建設すると発表した。清掃工場からCO2の供給を受け、食品や化粧品などの原料となる藻の培養を研究する。
火力発電所が排出するCO2を地中に貯蔵する「CCS」が温暖化対策として期待されているが、掘削に莫大(ばくだい)な費用がかかる。CO2を利用できればコスト負担が和らぎ、回収装置が普及しそうだ。温暖化対策と新産業の育成も両立できる。
日刊工業新聞2015年11月12日「創刊100周年特別号」より