柏崎刈羽原発の核防護設備に不備、正念場の東電HDが抱える未だに克服できない課題
東京電力ホールディングス(HD)が正念場を迎えている。柏崎刈羽原子力発電所(新潟県柏崎市、刈羽村)で侵入者を検知する設備が複数壊れていた問題で、原子力規制委員会から核物質防護などに関わる評価の中で最も深刻なレベルに当たる評価を下された。柏崎刈羽7号機の再稼働は遠のき、新潟県民のみならず福島県民からの信頼も大きく毀損した。福島の復興を企業存続の理由に挙げる同社にとって、根本的な改革を迫られている。(取材=編集委員・川口哲郎)
柏崎刈羽原発で侵入検知に関わる核物質防護設備が故障し、現場の判断で代替措置を講じていた。しかし、原子力規制庁が2月から3月に現地調査を行い、代替措置が20年3月以降に複数カ所で、不正な侵入を検知できない状態が続いていた事が分かった。
重大情報届かず
小早川智明社長は「現場は代替措置が有効であると判断し、動いていた。なぜ十分だと思ったのか検証する必要がある」と原因究明のポイントを説明する。小早川社長ら上層部が代替措置が不十分であると認識したのは、規制庁による2月24日から26日の調査だった。
現場が行った代替措置について、その判断を上層部に仰ぐリポートラインはなかった。核セキュリティーの関係上、代替措置は明らかにされていない。核防護に関わる重大な情報が経営層に届かないという事実こそ、原子力発電事業者の資格を問われる。
一体化の課題
経営と現場の乖離(かいり)―。東電HDが向き合ってきた課題だが、いまだに克服できていない。今回の事案を受け、橘田昌哉常務執行役新潟本社代表と牧野茂徳常務執行役原子力・立地本部長が柏崎刈羽の発電所に常駐する。小早川社長は「東京本社と新潟本社といくつか組織が分かれていることに不具合がなかったか、という仮説がある」とし、経営と現場の一体化に手を打つ。
東電HDは今後6カ月以内に原因究明と対策をまとめ、規制庁に再発防止策を提出する。柏崎刈羽7号機の再稼働は1年以上を要する見通しだ。
東電HDは福島事故に関わる16兆円の費用を負担し、毎年5000億円規模の利益を捻出する必要がある。電力小売り自由化で競争が激化する中、原発の重い固定費が上乗せされた電力小売事業は苦戦を強いられている。柏崎刈羽の再稼働は利益改善の大きな後ろ盾のはずだったが、実現が不透明になった。
根本原因を追求
核防護を巡っては、20年秋に柏崎刈羽原発の中央制御室に社員が不正入室する事案もあった。福島事故の反省から、「安全意識・技術力・対話力」の向上を掲げ、あるべき業務プロセスを示すマネジメントモデルを導入しているが、十分に機能しているか検証も必要だ。
小早川社長は「経営層と現場のコミュニケーションの断絶があったら大きな問題。根本原因を究明していきたい」と危機感をもつ。今度こそ一体となる組織文化に変えなければ、福島復興と経営再建の展望は描けない。