ニュースイッチ

1都3県の宣言解除迫る!「変異株」「第4波」など不安要素を前に急がれる仕組みづくり

1都3県の宣言解除迫る!「変異株」「第4波」など不安要素を前に急がれる仕組みづくり

ワクチン接種を受ける医療従事者(2月17日=代表撮影)

変異株、影響見極めカギ

政府は1都3県に発出している緊急事態宣言について、医療供給体制の改善が見られるとして21日で解除することを決めた。一方で、海外からの変異株流入や、新規感染者数が下げ止まり、感染再拡大(リバウンド)、流行“第4波”の兆候がある中での解除となる。菅義偉首相は18日の会見で「国と自治体が協力して対策を着実に実行する」と強調。安全で迅速なワクチン接種の推進など、仕組みづくりが重要となる。(安川結野、石川雅基)

残る不安要素 感染状況、監視体制構築

厚生労働省は専門家組織「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」を17日開き、1都3県において新規感染者数の減少に伴い医療への負荷は軽減傾向にあるものの、再増加の兆候があるという評価をまとめた。すでに感染のリバウンドが懸念されていることから、専門家からは「首都圏の病床使用状況が改善している今、感染拡大に備えた医療体制の拡充が必要だ」といった、再流行を見据えた対策を求める声が上がる。

さらに感染者が微増傾向にあることについては、「20―30代で感染者が増加している。これまでの流行の波も若年層から始まっているので注意が必要」など楽観視できない姿勢を示す。

こうした中で特に懸念されるのが、変異株の流行だ。現在国内では、英国と南アフリカ、ブラジル、フィリピンの変異株の感染が確認されている。これらの変異株は従来株より感染しやすい可能性やワクチンの効果への影響が指摘されるほか、英国の変異株では重症化しやすいという報告もある。16日時点で合計473例の変異株への感染が確認されており、国内での監視体制構築が急務だ。

会議では「変異株は現在そこまで多くない」としつつ、「変異株の臨床的、疫学的な分析、さらにワクチンの効果についても、海外の情報をもとにしっかり分析して対策へつなげるべきだ」と指摘が上がる。国内の実態把握に向け、政府は全国の大学や民間検査機関と連携し、変異株PCR検査を強化する。変異株PCRの検査割合を上げ、対策につなげる。

新型コロナへの切り札として期待されるワクチンは、全国での接種開始に向けて準備が進む。現在国内で接種が進むのは米製薬大手ファイザー製のワクチンで、4月から全国の高齢者に向けた接種が開始する。また、英アストラゼネカ、米モデルナのワクチンも相次いで厚労省の承認申請が行われ、日本への供給が決まっているワクチン全てが実用化、または実用化の手続きに入ったことになる。政府は優先的に審査し、早期の実用化を目指す。

一方でワクチン接種が先行する海外からは、安全性に影響を及ぼすような有害事象も報告され始めた。アストラゼネカのワクチンについて、接種後に血栓ができる症例が報告されたことを受け、ドイツやフランス、イタリアで接種を中断した。世界保健機関(WHO)は、接種による予防効果が感染症や副反応などの危険性を上回るとして接種を推奨する見解を示すものの、国内での承認審査や接種への影響も懸念される。有害事象とワクチンとの因果関係を精査するとともに、安全性に関する情報を発信することが求められる。

政府は新型コロナ克服に向け、新規感染者数を抑えながら医療機関の逼迫(ひっぱく)を回避し、ワクチン接種を拡大していくというシナリオを描く。しかし変異株のまん延やそれによるワクチンの有効性、安全性への影響など、不確定要素が立ちはだかる。

また、海外製ワクチンに依存した感染対策特有の脆弱(ぜいじゃく)性も浮かび上がる。ワクチンの輸入には欧州連合(EU)の承認が求められる。

世界でワクチンの供給遅れが問題となる中、日本はファイザーとの交渉により4月分の供給量が上積みできている状況。だが、生産量や需要によっては供給スケジュールへの影響も否定できない。国内外の情勢に応じた、柔軟できめ細かな対策が求められる。

注射器開発進む 7回接種型、本格量産へ

ファイザーの新型コロナワクチン1瓶から7回接種できる「ローデッドタイプ」の注射器の開発、製造が進んでいる。通常の注射器で5回、日本政府が確保を進める特殊な注射器でも6回までしか接種できないが、同注射器を使うことで通常よりも多く接種することができる。実際に7回接種するかは医療現場の判断だが、ワクチンを無駄なく使用できるものとして期待を集めている。

7回接種できる注射器は、トップ(東京都足立区)が2月、テルモが3月に製造販売承認を取得した。両社とも針とシリンジ(注射筒)を一体とすることで、針基(はりもと)と注射器先端に液が残るのを防ぎ、無駄になる残量を0・002ミリリットル程度まで抑えた。

テルモが開発した注射器は、針の長さが一般的な筋肉注射用よりも9ミリメートル程度短い、16ミリメートルの針が特徴。「日本人は皮下脂肪が薄いため、16ミリメートルでも十分な効果が出ると判断した」(同社)という。同社が皮下注射向けに展開していたローデッドタイプの注射器を改良した。

3月末から甲府工場(山梨県昭和町)で製造を開始できるよう準備を進めている。21年度に2000万本を製造し、22年度に設備を増強して供給量を増やす計画。政府と調整して4月以降順次、供給していく。

トップは、針の長さを筋肉注射に多く使用される25ミリメートルにした。21年に2000万本、22年に5000万―6000万本を国内の自社工場で製造する。「4―5月に製造を開始し、7月までに供給を始める」(同社)という。

(上)針の長さが13ミリメートルの既製の注射器(下)それを改良して開発した16ミリメートルの注射器(テルモ提供)

ニプロは、7回接種できる注射器を年内に製造・供給することを目指し、開発を進めている。注射器は、針の長さが25ミリメートルで、針とシリンジの一体型を想定している。大館工場(秋田県大館市)やタイの現地法人の工場(アユタヤ県)で開発・製造する。

現在、同社は6回接種できるガスケットが突起型のシリンジをタイ工場で製造している。月に約50万本製造しており、今後4―5カ月間で生産能力を数倍に高める。針は中国の現地法人の工場(上海市)で製造している。

日刊工業新聞2021年3月19日

編集部のおすすめ