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コロナ禍で実現の機運高まるスマートファクトリー、日本のお家芸を生かす“幹事”の存在

コロナ禍で実現の機運高まるスマートファクトリー、日本のお家芸を生かす“幹事”の存在

DXを「体感できる」ショールーム

人手不足に伴って、省人化やIoT(モノのインターネット)化による効率化の必要性が叫ばれてきた製造業。加えて新型コロナウイルスの感染拡大で、グローバルサプライチェーンが寸断され、各国の生産拠点は断続的な操業停止を余儀なくされたことで、「スマートファクトリー」実現へ向けた機運はますます高まっている。FAプロダクツは、デジタルデータの活用を通じた業務プロセス改革や、品質、生産性の向上を実現する「スマートファクトリー」にまつわるコンサルタント業務を手掛けており、製造業のDXから生産ラインの開発、実装までを包括的に支援するコンソーシアムの幹事企業でもある。

プランニングから実装、運営まで

同社の創業は2011年。ドイツで「インダストリー4.0」が提唱され始めた時期とほぼ重なる。貴田義和社長ら創業メンバーが自動制御機器などを手がけるキーエンス在籍時に、製造業の「製造システムと自己プロモーションの革新が必要」と痛感したのが創業のきっかけだ。

現在、同社が幹事を務めるコンソーシアム「Team Cross FA」が中心となり、企業のスマートファクトリー導入を一貫支援している。同社が得意とするのは、全体プランニングとソフトを活用した仮想シミュレーションの構築。現場で収集したデータからプランの立案やソフト上で最適化分析やシミュレーションを行う。これにより、現実に検証を行うよりもコストを抑えることが可能で、その後、シミュレーションの結果を現実世界で再現する。

同じく幹事企業であるロボコム(東京都港区)が構造設計を担当、FAロボットインテグレーターのオフィスエフエイ・コム(栃木県小山市)などが実装ソリューションを手掛ける。2021年5月には、製品量産を手がかるロボコム・アンド・エフエイコム(東京都港区)が福島県南相馬市にロボットシステムの新工場を稼働予定だ。

それだけではなく、日立システムズや鹿島、日研トータルソーシング(東京都大田区)といった公式パートナー企業とも連携し、保守から建築、人材育成まで広くカバーする戦略である。その裏には「スマートファクトリーの実現にはプランニングからシミュレーション、実装、運営のすべてが不可欠。それを一貫して成しえるにコンソーシアムが担う役割は大きい」(貴田社長)の思いがある。

同社がコンソーシアムを結成し、一貫支援を行うもうひとつの理由はスマートファクトリーが「部分最適に陥りやすい側面がある」(貴田社長)からだ。「(国や自治体の補助金を活用することで)中小企業でもロボットの導入が容易になった反面、問題はどう使いこなすのか。ただ導入するだけでは、数年後には使いこなせていないケースも少なくない」(同)と指摘する。とりわけ、近年、製造業は多品種少量生産への対応を余儀なくされている。「このままマンパワーだけに頼り続けるのであれば、いずれ製造業は立ちゆかなくなってしまう」。そこでカギとなるのが人間と協業できるよう、仮想空間で現実を再現する「デジタルツイン」の発想である。

貴田義和社長

デジタルツインの実験場

2020年9月に開設したショールーム「SMALABO TOKYO(スマラボ東京)」(東京都千代田区)は、協業ロボットを活用したデジタルツインの実用例を具体的に提示する「デジタルツインの実験場」である。異なるメーカー同士のロボットを同時に動かし、ラインを構築。生産指標をリアルタイムで表示するなど、実用に近いデモを展示する。実際に訪れた顧客からは、「この施設を見たら、自社工場で実現できるイメージが浮かぶ」「デジタルトランスフォーメーション(DX)が体感できる」と高い評価が寄せられているという。

くしくもコロナ禍で、急速なデジタルシフトが進んだことも追い風だ。同社へ駆け込むのは三品(食品、薬品、化粧品)や素材、物流を手掛ける企業。以前からスマートファクトリー化を進めていた自動車や電機業界と異なり、商品アイテムの多さや季節要因や需要の変動の大きさといった業界特性を持つことから、人手に依存せざるをえない側面が色濃く、デジタル技術を活用した全体最適の姿が描きづらい実情を抱えていた。結果として、コロナ禍がこうした構造的な問題をあぶり出し、「ここ数年、検討段階だった案件が一気に動き出した」(貴田社長)という。

SIerの地域連合も

スマートファクトリーが実現する効率化や、それによって生み出される新たな価値への期待が高まる一方で懸念もある。実働部隊となるシステムインテグレータ(SIer)の不足はそのひとつ。とりわけ、少子高齢化に伴い、働き手の確保が困難な地方ではスマートファクトリーによる生産効率化は喫緊の課題であるだけに、「SIerの地域連合」構想も進めている。コンソーシアムでの取り組みを通じて得た知見を地域のSIerへ共有。これにより、同社が重要視してきた一貫支援のノウハウを広げる戦略だ。

地域のSIerが連携し、ノウハウの共有と企業への支援を地域の中で完結できる「好循環」を目指している。「『つなぐ』ことは日本のお家芸。SIerの能力が向上すれば、スマートファクトリーの成功により近付く」(貴田社長)からだ。

経済情勢の先行きが不透明ないま、先行投資に二の足を踏まざるを得ない企業があるのも実情だ。だが、産業構造の変化やDXの流れに対峙するには、生産現場の変革は避けて通れない。より多くの企業がスマートファクトリーを通じて将来展望を描いてほしい-。同社のビジネスモデルからはそんな思いが強く感じられる。

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