中国からの生産移管先として企業がベトナムを選ぶ3つの理由
産業の高付加価値化 必須
ベトナム経済は、2021年入り後も輸出をけん引役に持ち直している。1月の通関輸出は前年同月比プラス55・3%の大幅増であった。この背景には、前年の反動もあるものの、欧米を中心に活動制限の再強化でテレワークがさらに普及し、パソコンや半導体などIT関連輸出財に特需が発生したという需要面の要因が挙げられる。加えて、近年の米中対立の激化を受け企業が中国から生産拠点を移し、この需要増に対応できる生産能力がベトナムで高まっていたという、供給面での要因も指摘できよう。これは、企業が生産拠点を中国に集中することで生じるリスクを回避するため、中国以外の国・地域に拠点を分散する経営戦略「チャイナ・プラスワン」を検討するなかで、ベトナムが最有力国となっていることを示唆している。では、なぜ、企業は中国からの生産移管先としてベトナムを選ぶのであろうか。
その要因として以下の3点がある。1点目が安価な労働力である。ベトナムの賃金水準は、マレーシアとタイの55%、インドネシアの75%であり、フィリピンと並んで労働コストの面で高い競争力を持つ。この結果、生産移管の動きは労働集約的なアパレル産業で顕著になっているほか、電機・電子産業の最終組み立て工程でも加速している。
2点目が中国との近接性である。これまでに中国は「世界の工場」としての地位を確立し、多くの分野で産業集積に成功してきた。その中国で事業を拡大した企業は、中国外への生産移管を考える場合も、原材料や部品は中国に依存する傾向がある。こうしたことが、北部で中国と国境を接し、陸路での輸送が可能であるベトナムの優位性となっている。
3点目が貿易協定締結による輸出環境の整備である。近年ベトナムは積極的な自由貿易協定(FTA)戦略を展開しており、それまでの「ASEANプラスワン」のFTAだけでなく、ベトナム独自のFTAも多く締結している。
これにより、他の東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国に立地した場合にFTAを活用できるのは世界需要の約3割に過ぎないが、ベトナムに立地することで世界需要の65%に競争的な条件でアクセスできることになる。
米バイデン政権下でも米中対立が緩和する可能性は低い一方、新型コロナウイルス感染拡大初期の中国での物流停止などを受け、中国依存度の低下を図る動きはさらに強まっている。そのため、当面、ベトナムは「チャイナ・プラスワン」の恩恵にあずかる形で堅調な成長を続けるであろう。しかし、現在のベトナムは、中国の「低付加価値分野の下請け的な存在」に過ぎないともいえる。生産移管が進む電気機器産業でも、比較的付加価値の低い最終工程での輸出競争力は高まっているが、高付加価値の電子部品などを含む中間財では低い競争力にとどまる。ベトナムが中長期的にも安定的な経済発展を遂げるには、将来的に中国の下請け的存在から脱し、より高付加価値な産業を育成・強化していくことが求められる。
◇日本総合研究所 調査部マクロ経済研究センター副主任研究員 塚田雄太