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始まったワクチン接種、感染収束なるか。求められる正しい情報発信

始まったワクチン接種、感染収束なるか。求められる正しい情報発信

12日にワクチンの第1便が到着(ファイザー/DHL/ANA提供)

新型コロナウイルスワクチンの医療従事者への先行接種が17日に開始。米製薬大手ファイザーと独バイオ企業ビオンテックが開発したワクチン「コミナティ」は14日、国内の新型コロナワクチンとして初めて承認を取得。承認取得から3日での接種開始となった。4月から高齢者など対象者を拡大し、早期に接種を進める構えだ。感染の収束に期待がかかる。(安川結野、石川雅基)

ファイザーなど開発、初の「特例承認」

厚生労働省は、ファイザーなどが開発した新型コロナワクチンを国内で初めて「特例承認」の形で承認した。これは、海外の実績を基に国内での使用を認める仕組みで、欧米での使用許可や国内の臨床試験の結果を受けて承認した。

政府は、2021年内にファイザーから1億4400万回分のワクチンの供給を受ける契約を結び、国内への輸送を開始。17日に、医療従事者への先行接種が始まる。一方で、これまでファイザー以外に、英アストラゼネカや米モデルナなどから合計1億5700万人分のワクチンを確保しており国民全員への接種に向けて基盤を固める。

先行接種では、まず国立病院機構や地域医療機能推進機構などに所属する100の医療機関の医療従事者4万人に行い、そのうち2万人について安全性を調査する。その後、高齢者や基礎疾患を持つ人、さらに16歳以上の一般の人に対象を広げ、迅速性を重視して1年間に集中して接種を進める。

ファイザーの新型コロナワクチンは、メッセンジャーリボ核酸(mRNA)という遺伝情報を活用した核酸ワクチンで、投与すると新型コロナ表面のスパイクたんぱく質が細胞内で発現する。これまでの臨床試験では、94・6%の有効性が確認されており、感染症の発症予防効果が期待される。

一方で副反応の懸念もある。ファイザーのワクチンでは、発熱や接種部位の痛みといった軽度な症状だが、ごく希に、全身に強いアレルギー症状が生じるアナフィラキシーが起きる可能性がある。こうした副反応は一般的なワクチンでも見られる。

ファイザーのワクチンにおけるアナフィラキシーの発生状況は、米国で100万回接種中5件、英国では10万回接種中1―2件。発生率は低いものの、新たなワクチンへの不安は大きい。

田村憲久厚労相は副反応に関する不安の声に対し、「情報をしっかり伝える。腫れや痛みといった症状は一定の比率で起きるが、数日で収まると報告を受けている。また、アナフィラキシーのようなごく希に起きる副反応についても、国内外の情報をしっかり発信する」と強調した。

厚労省の専門部会も、こうした重篤な副反応のリスクへの対応について、接種後の観察態勢の徹底や、救急措置に必要な物品を接種会場に常備することを指示している。

注射器各社、「ローデッドタイプ」開発加速 薬剤残りにくく

接種の体制整備が進む中、政府は確保を進めてきた注射器では1瓶から想定よりも少ない5回しか接種ができないことが分かり、6回接種ができる薬剤が残りにくい特殊な注射器「ローデッドタイプ」の供給を国内メーカーに要請した。これを受け、国内メーカーは製品の開発や量産に動きだしている。

ニプロは、ローデッドタイプの注射筒(シリンジ)をタイの現地法人の工場(アユタヤ県)で製造している。「月に約50万本を生産する能力があり、今後4―5カ月で生産能力を数倍に高める」(広報)計画だ。また、ファイザーのワクチンは筋肉注射に対応した針が必要。ニプロではこの針を中国の現地法人の工場(上海)で製造している。

テルモは、これまで筋肉注射に対応したローデッドタイプの注射器を展開していなかったため、今回製品の開発を始めた。同社では「厚労省とできるだけ早く供給できるよう協議を進めている」(広報)とする。

ローデッドタイプの注射器(ニプロ提供)

無電源の保冷ボックス、超低温の輸送・保管確保

厚労省はファイザーのワクチンを輸送・保管するための保冷ボックス、超低温冷凍庫の確保を進めている。

輸送用の保冷ボックスには、シャープとスギヤマゲン(東京都文京区)が共同開発した無電源の保冷ボックスが使用されることが決まった。大規模な接種を行う全国約1万カ所の「基本型接種会場」に各四つが割り振られ、基本型接種会場から接種を行う近隣の病院やクリニックなどにワクチンを輸送する際に使用する。約4万個の配送ボックスを供給する予定で、既に配送ボックスの納品を始めている。

スギヤマゲンとシャープが開発した保冷ボックス(スギヤマゲン提供)

保冷ボックスに入れる蓄冷材は、シャープが液晶技術を応用して開発した。配送ボックスの断熱は、厚さ約45ミリメートルの発泡スチロールのみに依存しており、2―8度Cの温度帯を12時間以上保つことができる。

基本型接種会場でのワクチンの保管に使用する超低温冷凍庫1万台は、世界シェア2位のPHCホールディングス(HD)をはじめ、国内メーカー4社が供給する。マイナス75度C前後での保管に対応する設置が容易な70―90リットルの小型タイプで、電源は家庭用と同じ100ボルト。基本的な性能は各社ほぼ同等にそろえている。

厚労省は超低温冷凍庫を、人口を基に各自治体に割り当てる方針。2月中に1510台、3月中に1860台を配送し、残りの約6700台を4―6月にかけて配送する計画だ。

ワクチン担当相、まず4万人 「6回シリンジ」確保

河野太郎ワクチン担当相は16日に会見を開き、ワクチンの供給状況について「先行接種を行う医療機関に届き始めており、まず4万人を対象に接種を開始する。その後の医療従事者への接種については、各都道府県の人数に応じて配分するワクチンの量を今週にも決めたい」と話した。

ファイザーのワクチンは第1便が12日、日本に到着。第2便については15日に欧州連合(EU)からの承認を受けており、来週にも届く見込みだ。一方で、日本への輸送がEUによる承認に左右される状況については、「欧州でのワクチン生産量の低下で、供給量が少なかった。今後生産能力が上がれば、日本への供給ペースが落ちることはないと想定している」と話した。

また、ワクチン1瓶当たりの接種回数については「先行接種の4万人分については、6回分取れる針とシリンジを確保した」と説明し、「貴重なワクチンが廃棄となることがないよう、6回分取れるものを医療従事者や高齢者の接種に間に合わせたい」と強調した。

会見する河野ワクチン担当相

幅広い層に正確な情報を SNSなど活用、有効・安全性発信

一般向けのワクチン接種も目前に迫るが、一部の調査では、ワクチン接種を希望する人の割合は6―7割程度に留まる。接種者の不安解消のため、医療従事者から一般の人まで幅広い層へ正確な情報を提供する動きが出てきた。

千葉大学医学部付属病院の吉村健佑特任教授が代表を務める「こびナビ」は、ホームページや会員制交流サイト(SNS)を活用し、新型コロナのmRNAワクチンの仕組みや、有効性、安全性に関する正確な情報を発信する。米国に住む日本人医師によるワクチン接種の体験や、動画による啓発活動を通じ、ワクチンについて正しい知識を身につけてもらうのが狙いだ。

吉村代表は「『ワクチンを打ちたい』と答えた人以外は、ワクチンを打ちたくないのではなく、迷っている状況」とした上で、「こびナビで正しい知識を身につけてもらい、納得できる形で接種を受けるかどうか判断してもらいたい」と話す。

発注量・接種実績など情報集約

厚労省は、ワクチン接種を効率的に進めるシステム「V―SYS」を活用し、自治体へ新型コロナワクチンや接種に必要な物資を適性に分配する。接種会場の状況やワクチンの在庫、発注量、接種実績などの情報を集約して管理し、無駄のないワクチン接種を進める。

新型コロナワクチンの配分は、国への供給量に応じて都道府県や市町村、医療機関に適切に行う必要がある。V―SYS上では、市町村別に割り当てられたワクチンや接種に使うシリンジなどの量を確認することができる。その情報を基に、自治体が医療機関などの接種会場の状況に応じて接種に必要な物資の割り当てを検討でき、供給の偏りを防止できる。また、医療機関側から接種可能なワクチン量の情報を登録することで、接種会場のキャパシティーに応じたワクチン供給が可能となる。

日刊工業新聞2021年2月17日

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