AIロボットの活用で小学生の授業風景はどう変わる?杉並区の取り組みに密着
情報通信技術(ICT)を含む科学技術を利用した教育システムの導入が教育現場で進む。新型コロナウイルス感染症の拡大はその動きを加速させるだろう。人工知能(AI)やロボットを利用し、児童の学習を支援する取り組みがどのようになっているのか。ロボットを活用した効果的な授業を実証し、新しい教育システムの構築を目指す杉並区立浜田山小学校(東京都杉並区)を訪ねた。(冨井哲雄)
【質問に回答】
浜田山小学校は2020年12月と21年1月、ロボットを活用した5年生の授業を実施。クラスを3―4人のグループに分け、食品ロスに関するグループ討論を行った。各グループの児童は食品ロスの原因を調べ「食品ロスをなくすためどうするか」の結論を導く。同小学校の伊勢明子校長は「ロボットを活用した授業は子どもにとって夢のある活動」と期待する。
慶応義塾大学理工学部の山口高平教授らが開発したロボットシステムを活用した。人型AIロボット「SOTA(ソータ)」とマイクを各グループに1台ずつ配備し、討論の進行を支援する。児童が食品ロスに関する質問をソータに投げかけると、AIが「給食」「作り過ぎ」など事前に収集した食品ロスのデータベースにアクセス。検索と推論を繰り返し質問に回答する。各グループはソータから得た情報と討論から結論を導く。
【分身ロボ導入】
一方、AIロボットだけでは柔軟な対応が難しい。同小学校では19年度にもAIロボットを利用した討論の授業を実施した。教員は現場の様子を見回っており「AIロボットがどの児童にどのような助言をしたのか」といった全体の状況を教員が把握することが難しかった。
今回は前回の反省点を踏まえ、教員が遠隔から児童を見守る仕組みを構築。各グループの議論の状況を教員のモニターに表示できるようにした。さらに現場での教員の“目”となる「アバター(分身)ロボット」を導入。教員の顔を映した端末を持つ移動式アバターロボットが児童の近くを動き回り、その様子をモニターに表示する。教員と児童はアバターロボットを通じテレビ会議形式でやりとりできる。
【学校間の交流も】
AIがグループの議論を「停滞」「逸脱」などと評価した場合、教員のモニターには評価が表示される。教員はアバターロボットを通じ児童に助言できる。討論の結果、各グループは「給食ではなく弁当に変える」「食べられる量を作る」などの結論を導いた。システム開発の責任者である慶大大学院生の倉持純太さんは「予想外の出来事などAIロボットだけでは対応できない場面がある。人とロボットの両方の活用が必要」と強調する。
ロボットによる支援システムは学校教育を大きく変えるかもしれない。山口慶大教授は「東京と地方の小学校をオンラインで結び、良い教員の授業を受けてもらうとともに、児童同士の交流ができるかもしれない」と語る。ロボットと人が共生する社会で教育現場は大きな転換点を迎えている。